第20話

「はぁー」

 

 僕は口から息を漏らす。

 血を多く含んだ血息を。

 僕に流れてくる血が多すぎて一部が漏れ出てしまうのだ。

 ここまで大量の血が僕に流れ込んでくるのも久しぶりだ。

 僕の中の悪意が増幅し、僕の力が上昇していっていることを知覚する。


「ラァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「邪魔」

 

 振り抜く。

 僕に斬りかかってきた侍を、僕は一刀の元両断する。刀も、甲冑も。


「止めれ!警戒!」

 

 僕は声がした方にゆっくりと振り向く。

 そこにいたのは侍たち。リーダーらしき男を先頭に、僕に刀を向けていた。

 彼らの甲冑には返り血がべっとりとついていた。

 

「ふぅー。そうだね。少し。ストレスのはけ口になってくれよ」

 

 縮地。

 抜刀。

 

「え?」

 

「へぇー。反応するんだ。天丸里心流かな?」

 

 長年の感か。

 僕の一太刀に見事刀を合わせることに成功したリーダーらしき男。

 しかし、そんなもの何の意味もない。

 僕の一太刀は刀ごとリーダーらしき男の首を斬り落とした。

 首を失ったリーダーらしき男はゆっくりと体を倒す。


「のっと」

 

 僕は視線を、切先を他の侍たちに向ける。

 

 一太刀

 二太刀

 三太刀

 

「ぐぁ!?」


「ひっ!」


「にげっ……!」


 四太刀

 五太刀

 六太刀


「ひぐぁ!?」


「ゆるし……」


「しっ」


「あ、あぁぁぁぁぁぁ!!!」


「ラスト」

 

 七太刀

 僕に剣を向けていた侍たち全員斬り捨て終える。

 全員の首を両断、即死だ。逃げることも剣を振ることも許さない。


「ふぅー」

 

 彼らの血が僕に呑まれ、消えていく。小さな闇を残して。


「うっ……あぁー」

 

 刀を落とす。

 刀は血の影に沈んでいく。


「ふぅー」

 

 飛翔。

 僕は空中に飛び上がる。

 

「……ゲーム通り、か」

 

 眼下。

 僕の眼下で繰り広げられる戦い、争い、内乱。

 醜い内乱。

 久しぶりに感じる殺意の狂乱と、むせ返る血の匂い。


「少しは変わるかな?とも思ったが変わっていないみたい。ルトたちも内乱を防ぐルートを選べなかったようだし」

 

 僕は血の影をこの場に落とす。

 もとより大地は赤く、血で染まっているのだ。

 少し暗い大地が僕の色に染まっても誰も気にしないだろう。


「どこだ?」

 

 僕は和の国に来た当日に。

 あらかじめ覚えておいた気配を探す。

 僕の血は一度覚えて気配を、獲物の気配を忘れない。

 

「みっけ」

 

 少し離れたところ。

 ここから少し離れたところで猛スピードで走っているお目当ての気配を見つける。

 このスピードからして馬を飛ばして走っているのだろう。


「パルちゃんは僕が無理やり寝かしたんだ。パルちゃんの仕事は僕が代わりにこなさいとね」

 

 僕は見つけた気配の方へと飛んだ。

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