第8話

「すごいわね!これが飛行船って奴なのね!」

 

 僕の隣に立つニーナが元気な声を上げる。

 今日がとうとう待ちに待った修学旅行の日。

 ここ、ファウスト王国から、和の国までの距離は約2000キロメートル。

 流石に馬車で行くには不可能としか言えないような距離。

 しかもその道のりには山や川。そして、広大な海が存在している。

 そんなところに馬車でなんか行けるはずもない。そもそもの話全員分の馬車の用意も大変だ。

 時速1000キロメートルで走り抜ける頭のおかしなガンジスを筆頭とした頭の異端審問官共や、空を自由自在に飛び回る終焉騎士団でも無い限りそんな大移動不可能である。

 

 そこで、僕達が使うのは『飛行船』と言うものだ。

 この世界の文明レベルは中世くらい。しかし、前世で飛行船が最初に作られたのは1852年。1852年フランスのジファールHenri Giffard(1825‐82)によって作られている。

 明らかに文明レベルに適していない発明品。

 それが今僕たちの前にあった。

 

 これは、今から十数年前。

 アンデッドの侵攻によって国が今まさに滅びようとしていた時に、その国にいた一人の天才が作ったものらしい。

 アンデッドの侵攻から逃げようとするその国の民。だが、明らかに彼らを逃がすには数の足りない馬車。

 そこで、その人は陸路から逃げぬなら空からと考えたらしい。

 そして信じられないことに魔法を駆使してなんとか開発までこぎつけたらしい。

 確かに魔法を使えば別に簡単に作れる。ガスも、素材も魔法で作れる。

 だからといって、中世の世界で飛行船を作り出してしまうとかそいつの天才ぶりには脱帽である。圧倒的すぎる。

 ぜひとも一度会ってみたかったのだが、その人は民を一人でも多く逃がすため、アンデッド相手に遅延戦闘を行い、その戦いによって命を落としてしまったらしい。

 非常に残念なことだ。会いたかった……。


「すごい迫力だな……」


「しゅごいです!!!」


「うん。そうだね」

 

 前世でもっとすごいものを知っている僕は別に驚きもしないが、周りに話をあわせておく。

 だが、僕達の前に並ぶ数台もの飛行船は確かに壮大ではあった。

 

「ほらー、入って」

 

 マリア先生の誘導に従いクラスのみんなは飛行船へと入っていく。

 飛行船は一クラスに一つ。与えられている。

 贅沢なものだ。まだ飛行船はそこまで数があるわけではないのに。まぁ和の国に運びたいものがあるからだろうけど。

 

「楽しみね!!!」


「はいです!!!」

 

 僕たちはワイワイガヤガヤおしゃべりしながら飛行船に乗り込んだ。

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