第5話
「ほんほん」
僕は光の聖女の話を聞く。
まぁ簡単に言うと、修学旅行の行き先が和の国だと言うことを知ったみんなが『なんであんなに田舎に?』とがっかりしていたところ、自分の国が馬鹿にされたと考えた水の聖女が激高。自分の国に愛と誇りを持っていた水の聖女には絶対に許せないことだったらしい。
それを煽るように雷の聖女がからかい、二人の間に緊張が走る。
二人の間にバトルが起こりそうになる!というところでルトが仲介に入ったらしい。
「つまり雷の聖女が悪いってことだね?」
僕は尋ねる。
当たり前の問いを。
「まぁそういうことに、なるね」
光の聖女が僕の言葉に頷く。
なるほど。なるほど。
僕の視線は光の聖女に向けたまま、視界の端に雷の聖女を捉える。雷の聖女は僕と同じ雰囲気を纏っていた。
……うーみゅ。どうしようか。
雷の聖女について知っていることは少ないんだよなぁ。
ゲームでは一章一章ずつ聖女について掘り下げていくのだ。僕がやっているのは、水の聖女、闇の聖女、土の聖女まで。雷の聖女についてはほとんど情報を持っていないのだ。
「ふん!」
居心地が悪くなったのか、雷の聖女はこの場から離れる。
僕が悩んでいる間に。
「ちょっとごめんね」
僕は未だに頬ずりを辞めないマリアお姉ちゃんから離れ、雷の聖女を追った。
雷の聖女はすぐに見つけることが出来た。
みんなの話が聞こえるように近くに隠れていたのだ。
「なんで来た?」
雷の聖女が僕に小さな言葉で告げる。
僕は何も答えず、ついてくるように手で示す。
みんなに僕達の声が聞こえないくらいに離れ、僕は足を止める。
「ねぇ」
僕は雷の聖女の方を向く。
「なんだ?私は今機嫌が良くないのだけど?」
「なんで演技したの?」
「……ッ!」
僕の言葉に雷の聖女が一瞬驚愕の表情を浮かべる。
だがすぐに、表情を作り変える。
「なんのことだ?」
「水の聖女の怒りが自分に向くように仕向けたよね?周りに被害が出ないように。自分を悪者にして水の聖女の評判を下げないように。元々自分に人望がないことを利用して」
僕の言葉に雷の聖女は二の句が告げなくなる。
あっていたのだろう。僕の予想は。
ちょっと国の成り立ちが特殊で愛国心を持たないこの国の人間は理解できないだろうからね。国を侮辱するという意味が。
それで怒り暴れたら水の聖女の人望が下がることは避けられないだろう。
だから動いた。自分を悪者にし、そして仲介としてルトを動かすために。
「……あなたには関係ないわ……」
「うん。そうだね。でも、心配だったから」
「あっそ」
「まぁ雷の聖女が大丈夫だと言うのなら僕は何も言わないよ」
「……シーネでいいわ」
「……え?」
「だからシーネで良いって言ったのよ!雷の聖女なんて肩苦しい呼び方じゃなくて!いい!わかった!」
雷の聖女、シーネは一方的に僕に告げる。
「ふん!」
そして、僕の返答も聞かずに背を向け元の場所に戻っていった。
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