第56話

 ギンザラの首は血となり消え、すぐにギンザラの首が再生される。


「なにや」


「黙れぃ!」

 

 ギンザラの言葉を遮るように人類最強。ガンジスは喉に剣を突き刺す。

 

「えぇい!」


 そのまま突進し、壁に突っ込む。


「あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!浄化だ!神の裁きだ!神のお導きだァ!」

 

 ギンザラの体に多数の剣を突き刺したガンジスは狂ったように笑う。

 その姿はどんな吸血鬼よりも恐ろしかった。

 祝福が為された銀の剣は吸血鬼に再生を許さない。ギンザラは何も出来ずにただ血を流し続けた。 


「ふん!」

 

 すぐ近くに降り立ったファートゥムがギンザラの首を蹴り飛ばす。

 転がった首は残されたゆっくりと体の再生を始める。


「その男は任せよう。我はあれを殺す!肉の一欠片残らず殺しつくそう」

 

 ガンジスは遠くに転がったギンザラを追う。

 ファートゥムはゆっくりとこちらに近づいてくる。


「なぁに?やらないの?」


「……あの男が来た時点でもう負けだ。どうあがいても勝てやしない」


「あっそ」

 

 僕とファートゥムは互いに蹂躙されるギンザラの姿を眺める。

 

「……何故。何故お前は人間の味方をする……」


「……またその話かい?」


「当然だ。……俺は……」


「お前がどう思おうと僕は人類の味方。守護者。それだけは間違いない」


「……くっ」

 

 ファートゥムは下唇を噛む。

 

「ふぅー。……そうか」

 

 ファートゥムは諦めたように呟く。悲しげに。

 ……本当になんでこいつは僕に絡んでくるんだ?

 別にこいつは『あの男』の関係者でもなければ、『終焉騎士団』の関係者でもなければ、唯一の吸血鬼の知り合いと言える『彼女』でもないはずだ。

 ……あのときの戦いの関係者?

 いや。でもこいつは知らないしな。

 考えれば考えるほどこいつがなんで僕に固執しているのかわからないな。

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 僕が考え込んでいると、ガンジスがギンザラを殺し終える。

 心臓を守れるだけの血も残らないほど出血を許容されたギンザラは心臓をあっさりと貫かれていた。

 殺されたギンザラのすべてが血となり僕の方に流れてくる。

 


 

 ……。

 ほーん。


「おぃぃぃぃ」

 

 ぐりん。

 首の骨が折れないか心配になるようなレベルで首を回してこちらに視線を投げる。


「俺はそれを殺せと言ったはずだがァ?」


「僕はそれに頷いた記憶はないけど?」

 

 別に敵意がないやつと戦って消耗したくない。ましてやガンジスの前となったら。

 

「……俺は帰る。……次に会った時は殺す。例えお前が──────」


 ファートゥムは真っ赤な翼を広げ、飛び去る。


「ふん!」

 

 ガンジスは剣を投げる。

 ファートゥムに向かってではなく僕に向かって。


「何のつもり?」


「何の、だと?その理由など一つだろう。貴様を殺すためだろうッ!」

 

 

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