第51話

「ほら、着いたぞ」


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 ルトのその言葉と共に僕は馬車から転がって木の本まで移動し、盛大に胃の中のものをぶちまける。

 まぁ胃の中にほとんど何も残っていないんだけどね。


「オェ」

 

 そして再び吸血鬼としてのものを開放し、酔いを吹き飛ばす。

 くそっ……なんで僕は乗り物酔いのことを忘れていたんだ。最初から吸血鬼として馬車に乗っていればあんな思いをすることしないで済んだのに……。


「大丈夫!?」

 

 すぐさまマリアお姉ちゃんが駆けつけてくれて、背中をさすってくれる。


「う、うん……」 

 

 僕はすぐさま人間に戻り、青白い痩せこけた表情を作り告げる。


「う、うんしょ」

 

 僕はマリアお姉ちゃんの手を借りてゆっくりと立ち上がる。


「すぅー、はぁー」

 

 僕は二、三度深呼吸を繰り返し、青白くしていた顔色を元の感じにゆっくりと戻していく。


「よし、大丈夫」

 

 僕はマリアお姉ちゃんの手元から離れる。


「じゃあ行くぞ。任務をこなしに」

 

「うん」

 

 ルトの言葉とともに僕達は任務の目的、大貴族がいる屋敷の中に入っていた。

 

「ようこそお越しくださいました」


 屋敷の中に入ると早速メイドさんたちは出迎えてくれる。

 ……はぁー。

 僕は内心でため息をつく。

 もう少し隠す努力をするべきじゃないのか?


「御当主様がお待ちです」

 

 そのメイドさんの中でも一番偉そうな人が僕達の案内をしてくれる。

 当主がいる部屋までの道のりまでにいろんな人とすれ違う。

 ……なんでルトたちは気づかないんだ。


 彼ら、彼女らがこんなにも死臭を漂わせているというのに……。


 この屋敷にいる騎士、執事、メイドさん。

 すべての人から死臭を感じていた。

 すべての人が殺され、レッサーヴァンパイアとなっているのだろう。

 全くこんな隠されてもいないようなレッサーヴァンパイアの存在も感知出来ないとかまだまだだな……。

 もっと成長してもらわないと。

 ……どこかで一旦こいつらの心を完膚なきまでにへし折っておくべきだろうか?


「こちらです」

 

 僕がそんなことを考えている間に僕たちは目的地にたどり着く。 

 メイドさんが扉をノックし、扉を開ける。


「ほう……君たちがあの勇者たちか……待っていたよ……」


 中にいるのは奥の大きな椅子に座り、机に手を置く一人の老年の男。

 その男はこれまたこの屋敷の人たちと同じく死臭を漂わせていた。

 そして、彼らの隣には燕飛服を着こなした二人の男が。

 その男たちは────────

 

 エルダーヴァンパイアだった。

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