第49話
依頼。
それは別に難しいものでもなんでもない。
地方の大貴族の領地に赴き、極秘の書簡を渡すと言うもの。
道中は第二王女様がパーティーにいるということもあり、王族が使っている馬車を使っての移動だ。
徒歩でも、ボロボロの馬車でもなく、豪華な馬車を使うことが出来る今回の依頼は酷く楽だと言える。
そんな楽な依頼で僕は────────
「オロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロ」
全力で胃の中のものをぶちまけていた。
「だ、大丈夫?」
「だ、だいじょ……オェェェェェェェエエエエエエエエエエ」
僕は全身全霊で酔っていた。
馬車に乗ったことならいくらでもあるが、その時はいつも吸血鬼としてだ。
今の僕は吸血鬼としての能力を封じた状態。ただの人間としてのステータスと肉体しか持っていない僕はすごく簡単に酔った。
前世でも乗り物酔いをしていたのだ。
前世よりもひどい乗り物、ひどい道で走っているのに僕が酔わないわけがなかった。
あー、気持ち悪い。
水の聖女と風の聖女が慈悲の心で冷やしてくれるのがありがたい。
「大丈夫だから!」
マリアお姉ちゃんが僕の背中を優しくさすってくれる。
アンデッドに害を与える聖の力を持って。
聖女たちにはアンデッドの対抗手段である『聖の奇跡』というスキルを覚える。以前マリアお姉ちゃんとクエストに行ったときはまだ習得していなかったが、どうやらこの短い時間で習得にまで至ったらしい。
『聖の奇跡』には他人の傷や体調まで直してくれるというとてもとても便利な機能までついているのだ。
ただし。
あくまで『他人』。
『他吸血鬼』ではないのだ。
今の僕は吸血鬼としてのステータスも強靭な肉体も持っていないのに、聖の力には大ダメージを食らってしまうのだ。
マジ不便。
意味がわからなすぎる。
マリアお姉ちゃんの行為がさらに僕の体を傷つけていた。
しかも、どれほどのその行為が辛くとも辞めるように頼むことも出来ない。
なんだ?この地獄は。
僕は決してドMではないのだが……むしろS寄りなのだが……。
「……大丈夫か?本格的に辛いながら馬車を止めるが……」
馬を操っているルトが僕の事を見てそう提案してきてくれる。
「だ、大丈夫……。僕のせいで遅れるわけにはいかないから……」
「そ、そうか。お前が大丈夫ならいいが……」
「うっ、オロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロ」
馬車のカラカラという車輪の回る音と、僕の吐く音が最悪のハーモニーを醸し出し、その道に跡を残して進んでいった……。
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