第42話

 慣れ親しんだ空気感。

 僕にとって最早実家の安心感を与えてくれるような裏社会。

 だがしかし、僕に安心感を与えてくれるこの場所は他のみんなにはキツイようだった。

 裏社会独特の殺気、熱意。

 それらはルトやマリアお姉ちゃんたちには辛いようだった。

 

「奴隷……!」

 

 ルトがある一点を見つけて目を見開く。

 その視線の先にあるのは首輪に繋がれているボロボロの子どもたち。

 奴隷。冒険者としてまともに働けなそうな子供、老人は奴隷として売り飛ばされるのだ。

 

「なんてひどいことを……!」

 

 ルトの目に、言葉に正義心が宿る。

 

「何をしようとしているの?」

 

 僕は一歩足を踏み出したルトの腕を掴む。

 

「何ってそんなの簡単だろ?あの人達を……!」


「だめだよ?別に奴隷は犯罪でも何でも無いんだから。ね?第二王女様?」

 

 僕は第二王女様に視線を向ける。


「……あぁ、そうだな。奴隷制度は国にはっきりと認められているものだ。犯罪でもなんでも無い。取り締まることは残念ながら出来ない」


「そんな……!人をあんなふうに扱っているのにですか!?」

 

 ルトと第二王女様が話し合い、それに対して聖女たちみんなも悔しそうな顔を浮かべる。

 僕はそんな彼ら、彼女らに冷めた視線を送る。

 ルトや聖女たちならともかく第二王女様もそんな考えをしているとは……ちょっと引き気味だよ?

 というか、こんな中央でやるなよな。

 

「ちょっとこっち」

 

 僕はルトの手を掴み、人のいない場所。

 密会できるような場所に移動する。

 ここは裏組織が管理する闇の繁華街。いくらでも密会出来るような場所はたくさんある。

 

「せめてここで話そう?あんな堂々と広い場所で話すものじゃないよ?他の人達の視線に気をつけて?」

 

「あ、あぁ。すまない」

 

 ルトは僕に頭を下げる。


「後、ここには犯罪を取り締まるために来たんだよね?別に奴隷どうこうするために来ていないよね?」


「だが!」


「だが何?。君一人が奴隷云々をなんとか出来るとでも?お前のような人間に出来ると?」

 

 僕は静かにルトを睨む。


「君一人で奴隷なんか出来るわけがない。対処できるわけがない。お前のような人間に。何も苦労していないお前に何が出来る?何をする?何が分かる?」

 

 僕の口から言葉が漏れていく。

 意識せずともどんどん言葉が出ていく。


「な、何を」


「奴隷は必要なものだ。奴隷は救いなんだよ。僕達の捨てられ、殺されるのを待つだけだった僕達の。ぬくぬく生きていたお前らに何が分かる?」

 

「……もしかして……?」

 

 奴隷。奴隷。奴隷。

 僕は何も出来なかった。何もなし得なかった。

 あぁ。それを……それを……。

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