第40話
「なっ……」
固まる。
目の前の第二王女様だけじゃない。これを見ていたすべての人がピタリと動きを止めた。
「……なるほど」
大剣を構えたままの状態で固まっていた第二王女様がゆっくりと大剣を下ろす。
「私はまんまと君に騙されたわけだな。刀の投擲も、あの驚きの表情も、全ては私の油断を誘うためのものだった、というわけだな?全ては最後の、隠し武器による一撃のための……」
「ま、そういうことだね」
僕は第二王女様の言葉に頷く。
「それにしても少し意外だったよ。卑怯者とか言って罵ってくるかと思ってたから。そんな簡単に負けを認めるとは思わなかった」
「心外だな。……確かにこれが騎士同士の試合だったとしたら私は君を卑怯者と罵るだろう。しかし、今は護衛としての力試し。殺し合いの中で私を守る能力があるかどうかのものだ。殺し合いに卑怯も何もない。そのとおりだと私も思う」
「へぇー」
「だが、次は油断しない。次は負けない」
第二王女様が僕に向かって敵意をたっぷりとぶつけてくる。
負けず嫌いなんだね。
「なるほどね。でも僕も負けないよ?」
僕は不敵な笑みで返す。
「ほぅ」
「絡め手、だまし討ち。それらは僕の得意分野だからね?」
「次に戦う時を楽しみにしているよ」
第二王女様は僕に向かって手をのばす。
「ふふふ」
それに対して僕は笑いで返す。
「その言葉と共に差し出される手は取れないな」
「……何?」
僕の一言に第二王女様は眉をひそめる。
「僕はこのまま勝ち逃げさせてもらうよ。もう二度と戦うものか。このままたった一勝を後生大事に抱えて生きていくよ。第二王女様との戦いにすべて勝った男としてね」
「むぅ」
僕の言葉に第二王女様はむくれる。
「戦わないことも立派な戦略だよ?」
「……なるほど。なるほど確かにそうかもしれないな。では、君に戦いを強制させることもまた戦いだな?」
第二王女様は一切の躊躇もなく大剣を大きく振りかぶり、振り下ろした。
ゴツンッ!!!
とんでもない音と衝撃。
視界がブラックアウトし、自分が何処にいるのかわからなくなる。
手のひらにじゃりじゃりという石が当たっているのを確認する。
刃が潰された大剣じゃなければ僕は死んでいただろう。
「いったぁ!!!あの!あの!あの第二王女様が!小さな男の子に対して不意打ちしたぁ!!!」
僕は情けなく悲鳴を上げる。
「大丈夫!?」
心配そうにマリアお姉ちゃんが駆け寄ってくる。
「いきなり何をしているんですか!卑怯ですよ!それが王女のすることですか!」
マリアお姉ちゃんが第二王女様を睨みつけてくれる。
避けると思っていた第二王女様は狼狽え、僕に助けを乞うような視線を向けてくる。
不意打ちで小さな男の子を叩き潰す。
そこに誇りもなにもないだろう。
僕は第二王女様に向かって小さく舌を出した。
「なっ!?」
第二王女様の大事な大事な名誉を削り取ったので、僕の勝ち!
ちょっと早いけど。
あけおめ。ことよろ。
新年も今作をよろしくお願いします。
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