第36話

 僕はこれまたとんでもなく豪華な部屋の中央に置かれている大きな椅子に腰掛けている男に話しかける。

 同族。

 僕を同族と呼ぶこいつは僕と同じ吸血鬼。

 この男はヴァンパイアである僕より一つ強いエルダーヴァンパイアだ。

 

「まぁ座ってくれたまえ」


「言われなくとも座るよ」

 

 僕は男が座っている椅子の向かいにある椅子に腰を下ろす。


「それで?今日はなんて呼べばいいかな?」


「ん?……そうだなぁ」

 

 男は考え込むような仕草を見せる。

 こいつの本名は僕も知らない。長き時を生きてきたこいつは数多の名前を持っており、こいつにとって名前になど何の価値もないのだ。

 

「よし!ヴァンパイアとでも呼んでくれ!」


「それ名前じゃないだろうがよ。それで?僕が平和に生活しているところにわざわざレッサーヴァンパイアを送り込んできて何の用?つまらない用だったら金もらうよ?」

 

 僕らが今日戦ったヴァンパイア。それはこいつの眷属だったのだ。

 こいつはわざわざレッサーヴァンパイアの血の結晶に僕に会いたいという熱いメッセージを乗せて、レッサーヴァンパイアを送ってきたのだ。

 全く。暇かよ。


「簡単な話だ。火の聖女を殺すのに協力しろ」


「……僕は一応火の聖女の護衛を任されているのだけど?」

 

「んなもん知っているさ。それを知って頼んでんのさ」


「馬鹿なのかい?なら僕が君の提案を受け入れることがないことくらいわかるだろう?会っていなかったここ最近で君の知能は大幅に低下したのかい?」


「んなわけがあるわけないだろう?俺らの下につけ。守ってやる。お前の平和な生活は俺らが保証してやる。神の犬どもに飼われるより、同族といた方がいいじゃなぇか」

 

 火の聖女を狙っているとある組織。

 名もなき組織。

 遥か過去より存在する組織。

 構成員が全て吸血鬼という異端の組織だった。

 この男は組織の幹部の人間、いや吸血鬼だった。

 

「なるほどね。普通に嫌だよ?」


 僕は提案を蹴る。


「ほう?どうした?お前ともあろう存在があの女に惚れたか?」


「そんなわけ。あれが死のうか生きようか僕には興味がないよ。ただ君たちが信用できないだけだよ?君たちの下について教会を、あの男を敵に回したくないんだよ」

 

 僕が君たちにつくメリットがないしね。

 勇者たちについていって、おそらくいるであろう世界の脅威に勝てるようにお手伝いするほうがいいだろう。

 この先この世界がどうなるか僕にはわからないのだから。

 僕の目的は人類の守護。

 教会と共にいた方が目的を完遂できるだろう。


「くくく、なんだ?貴様は吸血鬼の牙を折られたか?」


「ははは、試してみる?」

 

 ピリつく。

 殺気に、魔力に、威圧に。

 僕と男の目がきらりと赤い光を放つ。

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