第29話

「……Pardon?」


「え?何?なんて言った?てんどぅん?」


 僕が漏らした一言にマリアお姉ちゃんは首を傾げる。

 いきなり天丼とか言う奴いないだろ。


「あぁ、ごめん。エラー」

 

 この世界に存在する言語は遥か昔に存在したという古代言語と日本語だけ。

まぁ日本で作られたゲームだから当然のような気もするけど。

 古代言語とかも普通に日本の古典なんじゃないだろうか?

 知らんけど。


「あぁ、そう。それでね!私達の関係はもう一つ上の段階に上がってもいいと思うの?」


「何を言っているの?馬鹿なの?」

 

 僕は一言でバッサリと切り捨て、マリアお姉ちゃんの横を通り過ぎる。

 暇じゃないのだよ。僕は。ちゃんと勉強したい。

 この世界の歴史とか覚えるの大変なんだから。

 ゲームに全然関係ない歴史の知識の余裕で出てくるし。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?」

 

 マリアお姉ちゃんが僕の足にしがみつく。

 本当に何をしているの?


「話を聞いて?」


「……何?」


「えっとね!もう私達友達じゃない!」

 

「……?」

 

 ……とも、だち?

 え?ただの護衛対象に過ぎないのだが。


「そんな反応しないで!?とにかく友達なの!!!それでね!私はもっと一つ上の段階になりたいの!」


「……なるほどね」


 あ、これ知っているわ。

 ゲームでマリアお姉ちゃんが勇者に言ったやつだ。友達から更に一つ上の段階。仲間になりたいって言う話だ。冒険者になって。

 ……なんで僕に言ってくるの?

 もしかして本当に僕が勇者からマリアお姉ちゃんを寝取った?……いや、ないだろ。ありえない。

 

 誰かが僕を好きになるなど。

 

 うん。ありえないね。


「友達より一つ上の関係!仲間になりたいのよ!ということで冒険者にならないかしら?」


「ほっ」


「……」

 

 どうしようか。

 僕は悩む。

 まぁ別にいいか。アンデッドも殺せるだろうしな。


「いいよ。それくらいなら」


「ほんと!」


「うん。別にいいよ」


「じゃあ今から冒険者ギルドに行きましょー!!!」


「今から!?」


「うん!今から!」


「ほ、他のみんなは?」


「断られたの!悲しいことに!」


 あぁ、確かに最初は断られてたな。

 勇者が他の聖女のメンバーを説得してみんなで冒険者になったんだっけ。……あれ?じゃあ僕が説得したほうが……?いや、無理だな。

 そんなの僕に出来るわけがない。

 他の聖女とさほど仲良くはない。基本的にマリアお姉ちゃんがべったりと僕に粘着してくるから他の人たちと関わる時間がないのだ。


「それじゃあレッツゴー!」


「ちょ」

 

 マリアお姉ちゃんは僕を抱きかかえて、ずんずんと進んでいった。


「ちょっと待ってくれ!」

 

 その後を勇者は走って追いかけてくる。

 ……あいつも可哀相だなぁ。

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