第26話

「おー、本当にあった」

 

 僕は自身の目の前に浮遊している真っ赤に光り輝く玉を見つけて、歓喜の声を上げる。

 これは遥か昔、賢者と呼ばれた伝説上の男が持っていたとされている魔法が込められた特殊な道具、魔道具だ。その名を『賢者の宝玉』

 この魔道具の効果は実に強力。魔法の複製だ。

 一度使えば永続的に効果が持続するような魔法以外の魔法を同時に発動することは非常に難しい。

 今僕が同時に魔法を発動できるのは最大で6つ。人類最強であるガンジスでさえ最大13つ。魔法が得意なアンデッドの最上位種であるノーライフキングでさえ50個が限度だ。

 僕が魔法を1つ発動すれば、この魔道具の効果で数が50倍の50に。2つ発動すれば、100。僕の最大である6つを使用すればその数はなんと300。

 300もの魔法が一斉に敵に襲いかかるのだ。その強さがよくわかるだろう。

 倍数も自分で好きなように調節できるため、使い勝手も抜群である。

 ゲーム内で、最強チート武器と呼ばれたこいつ。ここにもちゃんと合ってよかった。

 こいつをゲームで手に入れるにはめちゃくちゃ意味不明なルートを通らないと手に入らないので、僕が勇者のかわりに貰ってしまっても構わないだろう。

 この一つがあるかないかどうかでだいぶ変わるのでこいつの存在はかなりありがたい。

 ……かなり久しぶりだ。ゲーム知識が役に立ったのは。今まではゲームとは関係ないところの物語だったし、一昔前のゲームと違ってこのゲームはバグや裏技みたいなものもない。

 ゲームの世界に転生したのならば、普通はもっと楽出来るんじゃないのか?今の所結構ハードな人生だったよ。

 でも、これからはゲーム本編に入ったし少しは楽できるといいな。


「よっと」

 

 僕は魔道具へと右腕を伸ばし、掴む。

 僕の右腕が赤黒い影へと変貌し、魔道具はゆっくりと呑み込まれていく。

 

「よし」

 

 これで用事は済んだ。さっさととんずらすることにしよう。

 帰りが遅くなったら、マリアお姉ちゃんにどやされ、勇者からはとんでもない目で見られることにまったく。

 14歳が、そんなに12歳に対して嫉妬するなよな。それにマリアお姉ちゃんが僕に向けてくる感情は異性の男に向ける感情じゃないしね。

 

「ふぁー」

 

 僕は大きくあくびをし、歩き始める。洞窟の中を。

 アンデッドは睡眠、食事、排泄を必要しない。

 だが、僕は前世じゃ人間。精神的には睡眠もしたいし、食事も摂りたい。なのでする。流石に排泄はしないけど。面倒だから。

 まぁしなくても全然平気なんだけどね。

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