第25話

「ふんふんふーん」

 

「ギリギリ」

 

 上機嫌にペンを動かす火の聖女。

 そしてそれとは対称的に歯を食いしばり、不機嫌にペンを動かす勇者。

 今ここで火の聖女をマリアお姉ちゃんとか呼んで、『マリアお姉ちゃん僕と結婚するの?(ショタボイス)』とか言って煽ってみたい気分に駆られるが、我慢する。

 そんなことしても誰も得しない。


「僕調べ物する」

 

「あぁ!?」

 

 さっきからずっとチラチラと僕のことを睨んでくる勇者に嫌気がさした僕は火の聖女の膝から降りる。

 それに対して火の聖女はこの世の終わりのような表情を浮かべる。

 ……え?何?そんなに僕のことを気に入っているの?

 君ゲームじゃそんなにショタコンじゃなかったよね?

 僕はからの火の聖女からの悲哀の視線と、勇者からの嫉妬の視線を浴びながら本棚に向かった。

 

 ■■■■■


「本見つけたね!」


「ふぉあ!?」

 

 僕は抱えられる。火の聖女に。

 僕の手からさっきまで読んでいた本がこぼれ落ちる。


「これね」

 

 火の聖女は片手で僕を抱え、もう片方の手で僕が落とした本を拾う。


「これ以外に必要な本はあるかしら?」

 

「な、ない」


「じゃあ行きましょ!」

 

 平和的に読書していた僕は魔王(火の聖女)によってあっさりと攫われてしまった。

 

 ■■■■■

 

「ふんふんふーん」


「ギリギリ」

 

 そしてまた最初に戻る。

 ……あれ?ループしている?僕はいつの間にか時を遡る能力でも手に入れてしまったのか?

 僕はそんな馬鹿なことを思いながら手元の本に視線を落とす。

 僕が調べているのは教会とそれに敵対するアンデッドや悪魔崇拝教などの伝説。

 特に興味深いのが、『七人の少女の生贄は神へと捧げられ、厄災の誕生を祝福する。彼女らは孕み、絶望する。自らは厄災と奇跡を体現させ、奇跡と厄災の衝突を見届けん』というとある悪魔崇拝教の伝説。

 僕はここに出てくる七人の少女が七人の聖女であり、厄災がアンデッド。奇跡が勇者なんじゃないかと思っているのだが……。

 あの『とある組織』が七人の聖女の身柄を、火の聖女の身柄を狙う理由がわからなかったのだが、これは実は悪魔崇拝教からの依頼などではないかと睨んでいるのだが……。

 まぁ正しいことはわからない。

 前世でやったゲームでは悪魔崇拝教というものは出てきたけど、まだまだ謎は多かったし……こう思うと全然ゲームのストーリー進んでいなかったんだな。

 ……出来れば完結しているゲームの世界に転生したかった。

 悪魔崇拝教も色々あるし、伝説だってほとんどが眉唾物だ。

 実際のところを知ることなんて出来やしない。

 僕に出来ることはこうして少しずつ情報を集めることだけだ。

 ……あーあ。もっと大きな図書館に入りたいなぁ。禁書とかがあるような。そこら辺に僕は入れてもらえないんだよなぁ。忍び込むことも出来ないし。

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