第23話

 何の手も施されていないありのままの本の匂いが僕の鼻腔をくすぐり、温かな光が僕を照らす。

 あのクエストから早一週間が経過していた。

 

「大丈夫?」

 

 そして、女の子の温かなぬくもりと、女の子特有のいい匂いが僕の鼻腔を突き刺していた。

 

「あ、はい!大丈夫です!」

 

 腰まで伸びた真っ赤で綺麗な髪と真紅の瞳を持った14歳とは思えないスタイルを持っている女の人が僕の問いかけに答える。

 彼女の名前はマリア。火の聖女マリアその人だった。

 彼女は今僕によってお姫様抱っこされていた。


 ここは国立国防学園内にある図書館。

 火の聖女が台に乗って図書館の上の方の本棚に置かれた本に手を伸ばしていたときに、バランスを崩して倒れてしまったのだ。

 そして、それを僕が受け止めたあげたということである。

 一応僕は火の聖女の護衛。別に命の危険があるというわけではないけど、助けたほうが良いだろう。

 火の聖女たち勇者パーティにも近づきたかったことだし。


「じゃあ落とすね」


「え?」

 

 僕は火の聖女をお姫様抱っこしていた手を離し、火の聖女は床へと落ちた。


「いった!」

 

 火の聖女は短い悲鳴を上げる。

 いやぁ、重かった。吸血鬼補正を持っていない今のか弱いショタっ子ではこの人を持ち上げるのは少々厳しい。お胸に大きな夢を蓄えている人だし。


「いきなり落とすかしら!?」


「いや、重いし」


「重い!?女の子にその言葉はだめで……」

 

 火の聖女は立ち上がり、僕を見てそのやかましい口を閉ざした。


「あら、可愛い」


「はぶっ」


 僕はいきなり火の聖女に抱きつかれる。

 ふぁ!?

 僕の鼻は完全に火の聖女の甘い匂いに包まれ、僕の顔は火の聖女のおっぱいに沈められる。

 

「いきなり何!?」

 

 僕は火の聖女から離れ、叫ぶ。


「あ、ごめんなさい。つい、可愛くて」

 

 ……ついで抱きつくのかよ。聖女ならもう少し慎みを持ってよ。


「それで僕。だめじゃない。こんなところに忍び込んじゃ」


「やかましいわ!制服が目に入らないのかよ!12歳!君たちと同じ新一年生だよ!」


「もー、わざわざ制服まで偽装して……だめじゃない。そんなことしちゃ」


「信じて!?制服の偽装なんて貧民でしかない僕には無理だから!」


 やろうと思えば制服の偽装くらいいくらでも出来るがそんなことをしたらガンジスに絶対に殺されるのでやらない。


「あら?本当なのかしら。……ごめんなさい。あ、今私達勉強しているのよ。さぁ一緒に行きましょ?」


「ふぇ?」

 

 火の聖女はひょいと僕を持ち上げる。

 

「あら、軽い。それじゃ行きましょ?」


「あーれー」

 

 僕は火の聖女に運ばれていった。

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