第17話
僕は剣を引き、男の子に背を向ける。
「俺はまだ負けていない!」
さっさと退場しようとしたところ男の子が突然叫びだし、魔法の詠唱を唱え始める。
「ほいさ」
僕は後ろ蹴りを放ち、男の子の顎を蹴り上げる。
舌を噛んだのか、口から血を垂らしながら吹き飛ばされた男の子はゴツンッという鈍い音とともに地面に叩きつけられた。
「不意打ちも一つの戦法だけど、不意打ちするなら叫んじゃだめだよ?静かにやらないと」
気づかれるように叫んで不意打ちしたらもうそれは不意打ちじゃないよ。
僕は先生に回復魔法をかけてもらう男の子を残して、パルちゃんの方に戻った。
「優勝おめでとうございます!」
パルちゃんが僕の方に近づいてきて、嬉しそうに告げる。
「ありがと。まぁ結構ひどい手を使って勝ったんだけどね……」
「そうです!なんで結界を張っていたのに、攻撃できたのですか?」
「闇魔法だよ」
「闇、魔法ですか」
「そ。認識変化っていう精神攻撃魔法。あの人は四方結界を貼ったつもりが、実際に発動させたのは対魔結界だったということ」
「えぇぇぇぇ!なんですか!それ。最強じゃないですか!」
「そうでもないよ。簡単に影響下から抜け出せちゃうからね。でも、この魔法のことを知らなければ対処できない。所謂初見殺しだよ」
「はぇー」
「あなた!すごいじゃない!」
準決勝で男の子と戦っていた赤髪の少女が僕の方に近づいてくる。
「見て!あのジースの顔!」
赤髪の女の子がさっき戦った男の子の顔を指差す。へぇー、あの男の子の名前ジースっていうんだ。
回復魔法をかけてもらったジースはなんかものすごい表情をして僕を睨みつけていた。
「実にいいわ!いい気味ね!」
赤髪の女の子はいつにもなく嬉しそうな表情を浮かべている。
「私、ニーナ!よろしくするわ!」
「ん。よろしく。僕はアウゼス」
「私はパルシアです!」
そういえばまだこのクラス自己紹介してないよな。
自己紹介はしなくていいのか?
これが異世界の文化なのだろうか?
「ジース。不意打ちはだめだ」
先生方がジースの近くに集まり、ジースが不意打ちしたことに対して叱っている。
「先生。不意打ちだって立派な戦略です。相手が負けを認めるより前に剣を引いた僕が悪いのです」
僕はジースをかばうように発言する。
「フッハッハッハ!」
しかし、その言葉を聞いてジースは更に顔を歪ませ、ニーナは笑い声を上げる。
……なんで?
……。
…………。
あぁ、そうか。プライドか。
プライドを傷つけられたのか。なるほどね。忘れていたよ。
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