第9話

「動きにく……」


 入学式の日、僕は本当に久しぶりに制服を着ていた。

 前世以来だ。まぁ前世でもほとんど制服なんて着ていないけど。動きにくい服装をするなんて本当に久しぶりだ。

 僕は制服を着ただけで憂鬱な気分になってくる。

 

「はぁー」


 ため息をつきながら通学路を歩く。

 僕はこれから毎日こんな道を歩いていくことになるのか……。憂鬱だなぁ。

 結局の所なんでアウゼスが主人公たちに嫌な態度を取っていたのかわからなかったし。

 アウゼスは初対面でいきなり主人公たちに向かって腐った糞尿の匂いがすると、かなりの侮辱を噛ましているからね。

 国王からの接触の後、何らかしらのイベント、とある組織からの接触を受けて主人公たちに嫌な態度を取ることになるのかと思っていたけど、別にそんなこともなかったし。

 一体全体どういう理由でアウゼスが主人公たちに嫌な態度を取ったのだろうか。

 もう原作からどうしようもないほどにかけ離れてしまった。

 これからはアウゼスの行動をなぞることを目標にするのでなく、出来るだけ主人公たちをサポートできるように動くことにしよう。

 僕のステータスは完全チートなんだ。

 頑張ればなんとかなるだろう……なってくれると良いなぁ。

 怖いなぁ。

 ラスボスがいるのは確定して、主人公がどれほど強くなるのか不明で、ラスボスがどれほど強くなるのかも不明で、不安なことだらけ。

 出来るのならば完結しているゲームに転生したかった。

 切実に。


「んっ」

 

 僕は国立国防学園の前に出来た人だかりを見て眉をひそめる。


「はぁー」


 憂鬱だ。

 そこに見える人の多くは貴族たち。

 プライドの塊とも言える貴族たちと接することほど面倒なことはない。

 ……両親の姿が多く見られる中で僕は一人。

 別にいいけどね、なんか寂しくなってくる。

 はぁー。

 どうやって主人公たちと接触しようか。

 悩むなぁー。

 僕は気怠げに足を動かし、校門を通った。

 

 この時のアウゼスは知らない。いや、気付けない。

 自分の境遇をわかっていてもなお、前世の記憶があるからこそ理解できない。

 アウゼスが人に話しかけるのが苦手だった、という単純な……それだけの理由だと言うことに。


 端から見たら侮辱しているとしか思えない言葉であっても彼なりに一生懸命頑張った結果だということだ。

 テンパりまくり、謎のハイテンションで口を動かしていただけに過ぎないと。


 最早何言ったのかさえも覚えておらず、とりあえず会話が出来ただけで大喜びしていただけに過ぎないと。

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