第1話

 昼は沈み、夜が昇る。

 そして、また夜は沈み、昼が昇る。

 それらは繰り返され、月が回る。

 季節が過ぎ去り、また戻り。

 それらは何も変わらず繰り返される。たとえ下で何が起きていようとも。

 時はめぐり続ける。

 何年もの時を経てようやく物語が始まる。


「こんにちは。何の御用でしょうか?」


「移住者なんですけど、ここで王国の身分証を作るように言われたのですが……」


 出来るだけ可愛く。

 助けてあげたいと思ってもらえるように。

 ここら辺の演技は最早プロレベルだ。どれだけやってきたと思っているのだ。


「あぁ。そうなの……。それは一般用かな?それとも冒険者用かな?二つの違いはわかるかな?」


「あ、はい!わかります!冒険者用でお願いします!」


「えっと……。ごめんね。冒険者用で身分証を作るのには年齢制限があるのよ……かといって一般で作れないしな……」


 冒険者用で身分証を作るには15歳になってからという制限がある。

 僕が転生してから7年間経っていて、12歳へと成長している僕だが、それでも作ることは出来ない。


「そうですか……」


 僕はしゅんと落ち込んで見せる。


「あ、そうだ!国立国防大学に入るのはどうかしら?推薦状は私が書いてあげるわ!ちょうど3日後に本試験での欠席者のための特例試験もあることだし!」


 はい来たぁ!


「ありがとうございます!」


「じゃあちょっと待っててね。書類を用意してきちゃうから」


「はーい!」


 僕がしばらく待っていると、国立国防学園の受験許可証を持ってきてくれる。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます!」


 よし目的のものは手に入った。

 

 ■■■■■

 

 ファウスト王国 王都。

 主人公である勇者の出身地。物語は主人公が国立国防学園に入学するところから始まる。

 僕はとりあえずゲーム内のアウゼスが取ったと思われる行動をなぞっていくつもりだ。

 まぁ裏で何をやっていたのかとかはわからないから、全然なぞれてはいないと思うが。

 アウゼスとして5歳から12歳まで7年間生きてきて、ある程度……アウゼスの境遇は理解出来たはずだ。

 しかし、何故アウゼスがわざわざ国立国防学園に入り、そして主人公たちに牙を剥いたのか。

 それは未だにわからないままだった。

 とりあえずはゲームのアウゼスと同じような動きをとったほうがいいだろうとは思って動いているのだが、実際にそれがどうなるのかはわからない。

 ……バッドエンドはできれば回避したいのだが。

 アウゼスがどうどんな役割をしているのかわからない以上それっぽく生きるしかない。これでアウゼスが必須級キャラで、アウゼスがいないと世界が滅亡するなんてことがあったらやばいから。

 僕はここからでも見える国立国防学園を眺める。

 この国では身分証がないと、何も出来ない。ないと、ここに住んでいる人たちにボコボコにされて奴隷落ちすることになるだろう。

 一般の方法で身分証を取得するのには色々な許可が必要で、取ることが出来ない。なので、奴隷落ちを回避するためには冒険者用の身分証を獲得し、命をかけてアンデッドと戦うしかない。

 ひっどい制度だぜ。

 アウゼスはこの国の身分証がないため、冒険者用の身分証を獲得する他無く、未成年の場合は国立国防学園に行ってから出ないと身分証を得られない。

 そして、国立国防学園に入学するためには推薦状を得る必要がある。

 そして、さっきの身分証の発行のお仕事に就いている女性には推薦状を発行する権利がある。

 つまり、今回のムーブで合っていると思うんだが……。

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