第7話 災厄
それから島には、次々と、ありとあらゆる災厄が起こった。
時化で漁が出来ない。サメの集団が海岸付近に現れる。小規模な津波が発生。土砂災害で畑が埋まる。地震で電話が断線する。船便が高波続きで来られずに、燃料不足でディーゼル発電機が止まる。薬品や食料の調達も出来ず、病院は機能を失い、ショッピングセンターは消耗品の棚がカラになる……。
その影には、既に人間だった頃の理性を失った、穢奈が居た。
穢奈は思いつく限りの災害を発生させ、島民を苦しめ、殺しさえした。雇われの権正階は被害者の神葬式に慌ただしく、神社の守りは体の不自由な宵に一任された。
故に、穢奈が、あの忌まわしい境内のある神社も破壊しようとしたが、霊体の朝子と彼女を守る宵の力で、神社に近づくことすら出来ずにいた。
そこまで、穢奈はケガレてしまっていたのだ。聖域に弾かれて入れない程に。
霊体の朝子には穢奈の姿が見えていた。
(赤い髪に、黒い服の女性の悪魔が、この島を災厄に襲わせています)
(手には大きな黒い鎌をお持ちです。鎌は禍々しい気配に満ちています)
「もし、迷える御霊(みたま)でおられるならば、遷霊祭(せんれいさい)をとり行い、霊璽(れいじ)に御霊を移すべきです。どうして迷っておられるのか、聞き出せますか?」
宵は朝子の霊に呼びかけた。
朝子は穢奈に声をかけた。
(貴女は何者ですか? どうしてこの島を憎んでおられるの?)
(我は禍津雛(まがつひな)。災いを起こす者。ふつふつと湧き上がる怨恨が果てるまで、島に復讐を続ける者)
穢奈はそう答えると、大鎌で朝子に斬り掛った。
朝子は舞扇で応戦する。
(貴女……3人の魂が混ざったものですね)
朝子はするりと身を躱し、大鎌の柄の上にとんと乗った。
(そのうち2人は、神葬式で祀られておられないわ……。1人、男性の魂を感じます。男雛が1人、女雛が2人いらして、3人で1人の姿を保っておられるなんて、異常な状態ですわ)
(そうね、異常かもね。あたしにはどうでも良いけれどね。この島が滅んで仕舞えば、あたしが何者だろうが、それで良いのよ!)
悪魔はケラケラと笑った。
どうしてもそうは見えなかったけれど、朝子には、穢奈の涙を、悲しみと絶望を、感じとるところがあった。
(貴女はどうしてそんなに悲しそうなのです?)
問いかけた朝子は、流れ込んできた思念に、卒倒しかけた。
あさこぉ、よい、たすけて……。
助けられなかった絵奈の悲鳴。
おねえちゃん、いたいよ……。
届かなかった麻奈の悲鳴。
ぼくは、うまれないまま、しんじゃうの?
名前すらつけられずに絶たれた小さな命。
ああ。
この3人は、絵奈と、麻奈と、麻奈の子供だ。
3人の断末魔の悲鳴なのだ。
絵奈と麻奈が双子の禁忌によって、引き離されたという話は、宵の知識にあった。
本土で麻奈に何があったのか、そこまでは詳しくは分からなかったが、恐らく妊娠したのだろう。男児を身ごもり、何があったのか、母子ともに果てたのだ。
穢奈は憎しみを露わにして、朝子に襲いかかってきた。
(あたしと同じ目に遭わせてやる。あんなに呼んだのに、助けを求めたのに、あんたは来てくれなかった。宵も同罪。ズタズタにしてあげる。魂が歪んで消えたくなるくらい)
(待って)
朝子は舞扇で攻撃を受け流しながら、説得にかかった。
(私達、事故で駆けつけられなかったのです。私は死んでいたし、宵さまも両足を失われて……。そうでなければ、絵奈さんのこと、守り抜きましたわ。境内を穢して、絵奈さんを痛めつけて、……許せませんもの)
(今更なら何とでも言えるよね)
穢奈は朝子の本気を笑い飛ばした。
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