第5話 事故と事件
その日から、朝子への、晶のストーカー行為が始まった。
宵は大事な朝子を守るため、車で朝子の家と神社を往復した。荷物を代わりに持ってやり、後部座席のドアを開けてエスコートする。
「そんな、宵さま……ドアくらい開けられますのに」
「運転席の後ろが一番安全だそうですからね。朝子さんに何かあったらいけません」
時には、学校にも送迎した。宵と絵奈は卒業済みだったが、朝子はまだ学生だったからだ。朝子は1学年下なのである。明は特に狙われていない様子だったので、自力で登下校していた。
オフロードバイクですらガタガタと走りにくい悪路を、免許取り立ての宵の車で移動するのはなかなか厳しかった。それでも、宵は少しでも朝子が安心して移動出来る様に配慮していた。初心者マークもつけたてで、山道はかなり集中が必要だったので、二人は黙って車内で過ごしていることが多かった。
ある雨上がりの日。昼間、嵐のような雨が降り、路面を緩めていた。
夕方、学校帰りの朝子を神社に送ろうとして、宵は崖べりの山道を運転していた。
朝子は宵とけそめき婆の言いつけどおり、助手席ではなく、運転席の後ろの席でシートベルトをしていた。
(助手席に座って良いのは、運転者の妻だけじゃよ!)
けそめき婆は常に朝子を厳しく躾けていた。
そして事故は起きた。
緩んでいた地面が、車の真下で崩れたのである。
そこは神社まであと数分の距離。森の中の、狭い山道であった。
車は崖を滑るように落ち、木々にぶつかって減速しながら、沢の近くで止まった。
宵も朝子も、意識を失っていた。
夕日が容赦なく翳っていく……。
「朝子ちゃんまだかよ? 今日はここに来るって聞いてたんだけど?」
神社の境内で、晶は絵奈の両首を絞めあげていた。絵奈は朝子を心配してここに来ていたのだ。
気丈に絵奈は晶を睨みつけ、膝蹴りを何発か入れて、振り解いた。
「船便で手紙が来たわ。石神井 麻奈(まな)って名前に覚えはない? あんたの高校のラグビー部のマネージャーだったそうだけど」
絵奈は怒りを抑えた口調で詰問した。
「石神井? ああ、居たな。それがどうした」
「亡くなったわ。あたしの双子の妹。妊娠してたんだって。で、お腹の子供と一緒に母体も……。あんた、関係あるんじゃない?」
晶は絵奈を御神木の1本に押し付けた。力が強い。勝てない。抵抗出来ない。
「あー、打ち上げで誰かが酒を飲ませたのは確かだ。オレが女子寮まで送って行った。足元がへろへろしていたからな」
そう言って晶はしげしげと絵奈を見た。
「双子の禁忌、か。石神井は養子にでも出されたんだな。確かによく似ている……髪の色で気づかなかったよ。ああ、途中の公園で石神井をヤったのはオレだ。そのこと、誰かに話すつもりか?」
「話さない、けど、神様が聞いているわよ!」
「神様ねえ。本当に居るのかどうか試してみるか?」
晶は絵奈の服に手を突っ込んだ。
「やだ、やめてよ! 境内よ! こんなの、神様が許す訳ない!」
絵奈は暴れた。晶の力は強い。振り解けない。
「嫌、何するの! やだ、こんなのいやだあ! 助けてよ、神様、けそめき婆ちゃん、朝子、宵! 誰か! いやああ!」
悲鳴はやがて泣き声を交え、境内の森に吸い込まれていった。
「どうして、遅いよ、朝子、宵! 助けてよ! やあ、やめて! 痛い、痛いって! 絶対麻奈のことは言わないから、お願いやめて! いや、いやああ!」
晶は、処女だった絵奈に、2時間以上、あらゆる性暴力をふるい続けた。
悲鳴が掠れてもう声も出ず、涙も涸れて、人形のように絵奈は暴力を受け続けた。
境内は日が落ちて真っ暗だ。
宵と朝子の車は助けにこない。
翌朝、神社には人が集まり、騒然としていた。
宵の車が沢で見つかり、乗っていた二人は救助されたが、宵は下半身麻痺が残り、朝子は眠るように息を引き取っていた。
そして、境内では、子宮破裂で亡くなっている絵奈の遺体が見つかったのだ。
駐在さん2人しか居ないこの島では、オオゴトだった。
車の事故は、崖崩れによるものと判断されたが、問題は絵奈だった。
明らかに誰かに襲われたと思えたからだ。
けそめき婆は、該当時刻には社務所にいて、境内とは離れていたため、何も聞こえなかったと証言した。
晶は自宅の裏手の海岸で寝ていたと、涼しい顔で嘘をついた。
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