第4話 邂逅

 島唯一のショッピングセンターで、朝子は服を選んでいた。

 朝子には悩みがあった。ムネが大きすぎることだ。

 下手な服を選ぶと、太って見えてしまう。

 しかし、ムネを強調するような服は、恥ずかしい。育て親である、けそめき婆にも、嫌な顔をされそうだ。

 巫女服の時や、着物の際は、ムネを出来る限り潰しているのだが、普段着となるとそうはいかない。朝子は悩んでいた。

「朝子さん、どうしました?」

 そこへ宵が、私服で現れた。神社のことはけそめき婆に任せて、少し羽を伸ばしにきたのだ。

「宵さま」

 朝子は顔色を明るくした。そして、なかなか服がないと悩みを打ち明ける。

 朝子の未来の配偶者は、服選びを手伝いながら言った。

「僕の見立てですけれど、朝子さんは、無理にムネを隠さなくて良いですよ。長所として、綺麗に見える服を探しましょう。手伝いますよ」

 宵は、シルエットが綺麗に見える服を幾つか手に取った。

「こんな感じはどうですか? 試着されます?」

「有難うございます」

 朝子は宵の選んだ服を手にして、試着室へと急いだ。

「お、宵じゃん。こんにちは! 朝子は一緒じゃないの?」

 絵奈が偶然通りかかる。絵奈も服を買いに来たのだ。

「今、試着中ですよ」

 宵はおっとりと答えた。

「お父さんのこと、大変だったね。神社はうまく継げそう? あまり無理はするんじゃないぞー」

 絵奈は自分より断然背の低い宵の頭を、わしわしと掴んだ。

「宵さま、如何でしょう……あら、絵奈さん。宵さまの御髪に触れるのはおやめになって。当代宮司さまですもの、罰が当たるかもですわ」

 そう言ってから、試着状態で、朝子は絵奈に挨拶した。

「それ宵が選んだ服? 似合っているじゃん! 買っちゃいなよ、朝子!」

「そ、そうでしょうか……」

 ムネを強調し、すらっとした体躯も隠さない服に、絵奈は朝子の背を押した。

「良いなあ朝子の髪。さらっさら。あたしはブリーチとカラーでバッサバサだよ」

 さりげなく朝子の髪を手で梳く絵奈。朝子はされるがまま答えた。

「伸ばすのは、御祖母様のお言いつけですから……」

「少しくらいお洒落したって良いのにね。巫女さんやっていると、制約多くて不自由だよねー」


 朝子と絵奈の買い物が終わると、3人はベンチのある広場へと移動した。

「マジな話、ちょっと聞いて。島に来た晶って男、すっごいタラシで、朝子を狙っているから気をつけて」

 絵奈はいつになく真面目な口調で警告した。

「おや、晶さんとは好(よ)き仲ではなかったのですか? 島の噂ではそう聞きましたが……」

 宵が首を傾げる。

「最近、会わないようにしてる。朝子朝子ってうるさいし、セクハラ発言は平気でするし。何か、本土では有名有望ラグビー選手だったみたいだけれど、失礼極まりないし」

 絵奈は泥を吐くように呟いた。

「正直、これ以上朝子を紹介しろってしつこいようなら、振っても良いと思ってる。あたし自身が押し倒される前にね」

「そんなに強引な人なのですか」

 宵は唖然としたようで、朝子も不安顔だ。


「ここにいたのか、絵奈」

 噂をすれば影がさす。その声は晶のものだった。

「どもっ、神来杜 晶だ。よろしくな、宮司さんと巫女の朝子ちゃん」

「神楽坂 宵です」

「神々 朝子です」

 馴れ馴れしく、晶は朝子の隣に座ろうとする。宵が席を入れ替えて、晶をブロックした。

「儀式の時には大きく見えるけど、随分チビでヒョロガリだな。朝子ちゃん、こんな弱々しい男から、オレに乗り換えない? 無論、絵奈のことも捨てたりしないぜ。3人で楽しくやろうや。宮司さんは女と遊んでいられないくらい、お忙しいんだろ?」

 晶の発言に、その場の空気が一気に悪くなる。

「宵さまは御祖母様がお決めになった婚約者ですから」

 朝子はか細い声で断る。

「あのババアか」

 けそめき婆を思い浮かべ、晶は毒づいた。

「ほら、でもさ、婚約者と別に、セフレが居たって良い訳だろ? オレ、朝子ちゃんのセフレに立候補するぜ?」

「そう言う発言、やめてくんない? 不快でしかないわ」

 絵奈がびしりと晶を遮る。宵も、呆れて声が出ない。

「その、私も、そういう風に仰られるのは、気分が良くないです……」

「貴方は女性を何だと思っているのですか? 失礼ですよ」

 朝子が消え入りそうな声で答え、宵は晶を睨みつけた。

「チビが吼えても可愛いだけだな」

 晶は宵の頭を押さえつけるようにワシワシし、豪快に笑った。

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