第2話 島巡り
島の朝は早い。
本土に日が昇る何時間も前に、朝が訪れる。
そして、漁師の朝はもっと早い。
「晶、寝坊したわね。父さんはもう船を出して行っちゃったわよ」
珠香が起きてきた晶に朝食を出す。都会と違い、質素な和食の朝ご飯だ。
「こんにちは、回覧板です」
そこへ、隣に住む、神和住 絵奈(かみわずみ えな)がやってきた。
「有難う、絵奈ちゃん。お父様にはお世話になるわね」
珠香は回覧板を受け取り、吾子也に漁の手解きをしてくれる神和住夫妻への礼を言った。
「お茶でも飲んで行かない?」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて、頂きます」
絵奈はブリーチのかかった金髪をかき上げた。インナーカラーの赤がパーカーの色と良くあっていて、都会的だ。晶は好意を抱いた。
「息子の晶よ。これからよろしくお願いね」
「あは、よろしく! あたしは絵奈。あんた、デカイねえ」
絵奈は人懐こく笑った。右手を差し出す。晶は華奢な手をそっと握った。何処か、壊れもののように思えたからだ。
「暇なら、島を案内してあげようか! 大したものは無いけど、景色は良いよ!」
絵奈の爺ちゃん愛用のオフロードバイクで、2人は島を回ることにした。
思い掛けず、絵奈と晶は同い年だった。
絵奈は島の外に合宿してバイクの免許を取ったそうで、晶は慣れないヘルメットを被せられ、バイクの後部座席に収まった。こうして女子とタンデムするのは初めてで、晶は思わぬ絵奈の荒い運転に、何度もヒヤリとさせられていた。その度に絵奈の体に回した腕に力がこもる。絵奈もなかなか良い体つきをしていた。晶の腕が徐々に胴から胸へと近づいていく。
「それ以上」
「何?」
ヘルメットと風圧でよく聞こえない。
「それ以上、手を上にずらしたら、ウイリーで振り落とすからね!」
斯くして、小さな校舎、小さな役場、駐在所、病院(緊急用のヘリがあるとか)、畑、海、ショッピングセンター、漁師小屋などをざっくりと案内された。道は整備されているとはお世辞にも言えず、絵奈の荒い運転も、路面の影響が大きいのだと思われた。
「男は媛山に入ってはいけないし、女は彦山に入れないんだよ。そういう細かい決まりは覚えておいてね。マジで天罰が下るから」
明るくさらりと絵奈が言う。
「この島には本当に神様が居るんだよ。あたしのダチの両親は、掟を破って天罰を受けたんだ。神様を舐めたらいけないよ。島の中では絶対にね」
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