第14話 共闘
一体目の討伐から二日程が過ぎた。
自分が準備してきた食糧もだいぶ少なくなってきている。
食糧は現地調達も考慮すればまだまだ余裕はあるが、そろそろ二体目を見つけて討伐したいところだ。
暫く高原の一帯を探索していると、岩場に人が入れるくらいの洞窟があるのを発見した。
(……どうする?)
未知の洞窟だ、何がいるかもわからない。少し不安になる。横にいるフブキの顔を覗きみるが、彼女は俺に確認をとることもなく涼しい顔をして洞窟の中に入っていった。
(本当にこの人は! 恐れを知らないのかよ!)
俺は呆れながら彼女の後を追った。
警戒しながら洞窟の中を進んでいく……。洞窟内は案外広くなっているようだ。岩の隙間から光が入ってくるのか、思ったより暗くもない。これなら充分探索できそうだ。
とりあえず洞窟の最深部を目指すことにした。道中で気になった事は『ブラッディースパイダー』という敵が沢山いることくらいか。
こいつ自体はさほど強くはない。Fランク級の敵で、町周辺にも出現したりするので討伐した経験もある。
暫く進むと行き止まりになっている場所に到着した。他には道はなさそうだ。ここが最深部なのだろうか? 他の場所よりも一際広くなっている場所で、薄暗く視界は悪い。灯りを灯して探索してみたが、この場所には特に何もないみたいだ。
あきらめて引き返そうと振り返ったその時、五体のブラッディースパイダーが帰り道を塞ぐように現れた。
数は多いが問題ない。フブキは氷の刀で、俺は弓で応戦する。
(またこいつか。いったい何匹いやがるんだ?)
苦労することもなく五体全てを倒しきった時だった。天井の方で何か大きな物体が微かに動いたような気がした。
反射的にその方向に向かって矢を射ってみた。
……すると、天井に張りついていた何やら大きな物体が落下してきた。
それは、『ブラッディースパイダー』の親玉だった。
かなり大きい。普通サイズの十倍、いやそれ以上かもしれない。
「当たりだ! 来て良かったな。こいつが討伐対象だぞ!」
驚くどころかフブキは喜んでいる。この状況をピンチとは思っていないみたいだ。
親玉が地面に降りてきたのに呼応して、子分たちも続々と姿を現した。
……数が多い。間違いなく十体以上はいると思う。俺達だけで対処できるのか?
いいや、考えても仕方がない。やるしかないんだ。
こうして洞窟の中での乱戦が始まった……。
「私がデカイのをやる。他はお前にまかせていいか?」
「わかりました。なるべく引き付けます」
「頼む。他の奴の邪魔が入ると、私の瞳のスキルも上手く機能しないんだ。なるべく早く片付けるから」
作戦通りお互いに離れて距離を取る。フブキが親玉を、俺が子分達に向かって攻撃を仕掛ける。
しかしこの作戦が上手くいかない。子分達が本能的に親玉の方を守ろうと、フブキの方に集中してしまうからだ。
(なんとかしないと……。そうだ! こいつらを近づけさせなければいいんだ。こういう時は!)
「フレイムウォール!」
魔法を唱えるとフブキと親玉の周りを円を描くように、高さ三メートルくらいの炎の壁が産み出された。
「これで少しは時間が稼げるでしょう。炎が消えるまでに、なんとか討伐して下さい!」
狙いどおり子分達は目の前に揺らめく炎の壁を恐れているのか中に入れないようだ。
(よしっ! 上手くいった)
だが喜んだのも束の間、怒り狂った子分達の敵意が全て自分に向けられているのを肌で感じた。此方の方に向きを変えて近付いてきている。
……こいつらだけで何匹いるんだ? こんな数を一度に相手になんてしたことがない。俺に務まるのか?
(いいや、やるんだ! この場をあの人に託されたんだ、絶対になんとかしてやるさ!)
俺は一心不乱に戦った。剣を振り、弓を射ち、クールタイムが終わったら、すかさず魔法を撃ち込んだ。
もう何体倒したか覚えていない。
だが多勢に無勢。次第に形勢は不利になり、ふと気を抜いた瞬間に敵の強烈な一撃をくらってしまった。激しい痛みが全身に駆け巡り、衝撃で壁際まで吹っ飛ばされた。
(くそっ、これくらいなんだ! まだ戦えるだろ!)
軽症とは言えないだろう。だが弱音を吐いている暇なんてない。パチンと太股を叩いて気合いを入れ直し、傷ついた体をなんとか奮い立たせる。その時
「トウマ、待たせた! よくやったぞ!」
遠くからフブキの声が聞こえた。約束通り親玉の討伐に成功したようだ。
「あとは任せろ!」
そう言って、フブキはもの凄い勢いで残りの敵を斬り倒していった。
あぁ、なんとか切り抜けたんだ。
俺は受けたダメージと勝利への安堵感でその場に座り込んでしまった。
「おい、大丈夫か?」
戦闘を終えたフブキが心配そうに駆け寄る。
「まあ、なんとか……。敵がまだ残っているかもしれません。ここは危険です。とりあえず出ましょう」
フブキに支えられながら洞窟の出口を目指し、なんとか脱出することができた。
こうして無事二体目の目標も討伐することに成功した。
無傷というわけにはいかなかったが、今回の戦いは自分も少しは活躍できたのではないだろうか? フブキの役に立てたと思うと、なんだか嬉しくなる。
洞窟を離れて休憩しながら自分自身にヒールをかける。
なんとかダメージは回復したものの、連戦による疲労感が一気に押し寄せてきた。これ以上の探索は厳しい。フブキにお願いして今日は早めの休息をとってもらうことにした。
その日、夜営をしながら洞窟での戦いの事を二人で振り返った。
「今日は大活躍だったな、トウマ」
「そうですかね……」
「お前がいなけりゃもっと苦戦していたと思うよ。……それにしてもお前のスキルはすごいな! ほぼ全ての魔法を使えるんだろ?」
「はい。色々と制約はありますけどね……」
「今まで沢山の魔導師を見てきたが、お前みたいな奴はいなかったよ。全属性の魔法を扱えるってのもそうだが、特に解析不能のスキル持ちなんて私も聞いたことないぞ!」
「……本当になんなんですかね、これ。もう何かの呪いみたいなものだと思ってますよ。これが別の有益なスキルだったら、自分の人生も違っていたかもしれませんね」
それを聞いてフブキは何やら思案している。そしておもむろに自身のステータスを呼び出した。
「トウマ、これを見てみろ」
どうやらフブキが自分のステータスを見せてくれるようだ。彼女に言われるがままステータス画面を覗く。
……凄い数値だ。さすがAランク級を軽々討伐するだけあって、全てのステータスの値が異常に高かった。
「違う! お前に見てもらいたいのは、こっちのスキルの部分だよ」
フブキに指摘され、今度はスキルの欄を見てみる。ざっと眺めただけだが数多くのスキルを有しているようだ。まじまじと眺めているとステータスの画面が閉じられた。
「私のスキルを確認しただろ? それでさ、生まれつき持っていたスキルはどれくらいだと思う?」
「……全部じゃないんですか?」
「違うよ。せいぜい半分くらいだったかな。残りは世界中を旅している内に習得していったんだ」
彼女の言葉に耳を疑った。スキルは生まれつき持っているものが大半で、新しいスキルが追加されるなんて事は滅多にないはずだ。けれど彼女はこんなにも多くのスキルを有している。
「旅をして、学んで、経験して、強敵と死闘を繰り広げて、そうやって身に付けられるスキルもこれだけあるということさ。もちろん誰もが簡単にスキルを身に付けられるわけではないがな」
「じゃあ……俺にもまだ新しく身に付けられるスキルがある。と?」
「ああ。断言はできないがな。たとえ解析不能のスキルが開放されなくても、今から身に付けられるスキルで、お前は大きく化けるかもしれない。……だからさ、今からでも頑張ればいいんだよ。本人が諦めない限り、遅いなんてことはないのさ」
そうか……。フブキなりに俺を励ましてくれてるんだ。
その気持ちにとても嬉しくなった。
「でもさ……、私のステータスばかり見せるのは不公平だよなぁ。おい! お前のも見せろよ!」
やっぱりそういう流れになったか……。乗り気ではなかったが、フブキがしつこく食い下がってくるので仕方なく応じることにした。
促されて自分のステータス画面を開いてみせた。
フブキは俺の【魔法王の加護】のスキルと解析不能のスキルの部分を食い入るように見ている。
「トウマ、そのまま何でもいいから魔法を使ってくれないか?」
「え? どうして?」
「いいからやれよ! 気になる事があるんだ」
急かされて渋々自分にヒールをかける。
「そうだそれでいい。クールタイムが終わったら、またヒールをかけてくれ……。何回か続けてくれるか!」
面倒だなと思いながらも言われるがままにヒールをかけ続ける。
五回目をかけ終えたところで
「なるほどね……」
フブキはそう呟いて考えこんでいる。何かわかったのだろうか?
「おそらく、お前のクールタイムはMPと関係してるな。魔法を使って、消費したMPが最大値まで自然回復したらまた魔法が使えるようになっているみたいだぞ」
驚きを隠せなかった。今まで俺を悩ませていたクールタイムの謎を、あっさりと解いてみせたのだ。
「でもなー。クールタイムの謎が解けても、根本的な解決にはならないんだよな。なぜ初級魔法しか使えないのか……、初級魔法ということに意味があるのか?
いや、待てよ。もしかしたら、このクールタイム自体に何か意味があるのか? それとも……」
まるで自分の事のように真剣に考えてくれている。変な人だ……。
本人には絶対に伝えるつもりはないが、この人と旅に出て本当に良かったと思っている。毎日が驚きと発見の連続だ。このまま一緒に旅を続けていったら、もしかしたら本当にこの解析不能のスキルの謎も解けるかもしれない。根拠なんて何もないが、彼女はそんな気にさせてくれる。
「……うーん、だめだ! 色々考えても仮定の域を出ないな。今日はもう休んで、明日もまた色々試そう!」
「えぇ……。またやるんですか?」
「当たり前だろ! これから毎日やるぞ! 疲れたからさっさと寝るぞ」
本当にこの人に振り回されっぱなしだ。でも、不思議と嫌な気分じゃない。こうして二人は暫し休息をとるのだった。
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