第13話 二人旅
こうして二人で高原に向かう事になった。
高原までの道は入り組んでいて、やはり初見の冒険者が目的地までたどり着くのは難しかっただろう。
以前に高原の採集依頼を受けていて、その時に作っておいた自作の地図が役に立った。
休憩と夜営を繰り返し、三日かけて無事高原までたどり着くことができた。
この三日間の道程で、彼女に関して色々とわかった事がある。
まずフブキの性格は、大雑把で計画性がないということだ。
出発の日、町の入口で会った時、彼女の荷物の少なさには驚かされた。本人は町で充分準備してきたと胸を張っていたが、絶対に片道までも保たないだろうなと思った。
地図を渡してもまともに読むこともできず、とりあえずまっすぐ進めばどうにかなるだろうと言っていた。
よくもまあ今まで旅を続けてこれたものだ。
食に関してもかなり大雑把だ。
なんでもかんでも火の中にぶち込んで、焼くか煮るかして食べる。それがフブキ流らしい。
途中で獲物を採って、簡単な調理をして振る舞ってあげたら感激していた。
なんだか安心した。はじめはどれだけ完璧な冒険者なんだろうって勝手に想像していたけれど、案外普通で、できないことや苦手な事もちゃんとある人間味のある人だった。
俺はこの人と旅をすることで何を得られるだろうか。今はそんな期待感で満ち溢れている。
リニヤム高原
デイカフの町の北部に位置する場所で、標高が町よりも高いせいか空気が肌寒く感じられる。一帯には草原が広がっていて、見たこともない植物や小動物の群れが見受けられる。
まだまだ未開の土地だが、湖や洞窟の存在も確認されていて危険な生物も多数いると報告されている。
まずは野営地に適した場所を探すべきだろう。フブキに提案して近場の草原地帯から探索をすることにした。眼前に広がる草原をあてもなく歩く。
草原地帯を抜け、木が鬱蒼と茂る森林地帯にたどり着いたところで、ついに一体目の対象のモンスターに遭遇した。両腕が鋭い鎌のようになっている、巨大なカマキリの姿をしたモンスターだった。
「トウマは手を出さなくていいぞ。今回は君に私の実力を見てもらおうと思ってね」
そう言うと、フブキは単身で敵に向かっていった。
戦いが始まり、敵が猛攻を仕掛ける。
さすがBランク級のモンスターだ、町周辺にいるモンスターとは威力もスピードも比べ物にならない。おそらく今の俺では手も足も出ないだろう。
戦闘が始まってから少し時間が経過したが、フブキはなぜか攻撃を仕掛けない。ただ相手の攻撃を見て、避け続けている。たまに魔法で氷の刀を造りだして、相手の攻撃を受け流すだけだ。背中にある大剣は使わないのだろうか?
「……そろそろいいかな」
フブキはそう呟くと、一旦相手との距離を取って大きく深呼吸した。
そして、敵に向かって無防備に歩きだした。
さすがに危険だろ? どういうつもりだ? モンスターは両腕の鎌を振り回して必死に攻撃を繰り出す。
……しかしその攻撃は当たらない。
敵の攻撃が激しさを増していく。
……それでも攻撃は当たらない。かすることすらできない。
まるで次の動きが見えているかのように相手の攻撃をギリギリの所で全てかわしていく。
「お前の攻撃はそんなものか? じゃあそろそろ終わりにしようか」
右手を高く振りかざすと、フブキは再び魔法で氷の刀を造り出し、敵の攻撃をかわしながら斬撃を加え始めた。
かわしては攻撃、かわしては攻撃。フブキの一撃は、がら空きになった相手の急所を的確に捉えていく。
ダメージが蓄積しているのか相手の動きが少しずつ鈍くなっていく。
そして、敵は完全に動かなくなった……。
「まあ、こんなものだな」
圧倒的だった。フブキは傷一つ負うことなく戦闘に勝利したのだ。
「見ていてくれたか?」
「凄いです! さすが最強のソロハンターって言われるだけはありますね。Bランクの敵をこうもあっさり倒すなんて」
「まあこんなもんさ。とりあえずこれで一つ目の討伐は完了だな。少し疲れたから探索は終わりにして今日はもう休もうか」
「そうですね。今日も結構な距離を歩いてきましたからね」
倒れているモンスターから素材を採取した後、見晴らしの良い場所を探して夜営をすることにした。
寝床の準備をして簡単な食事を済ませた。その後、就寝前に二人で火を囲む。色々と談笑する中で先程の戦いについて話してくれた。
「実はな、私は生まれつき瞳にスキルが宿っているんだ……」
彼女の説明によると、瞳に魔力を流すことで発動するスキルを持っているらしい。そのスキルを使うと相手の攻撃力、スピード、攻撃範囲や行動パターンなど、詳細な情報を瞳が自動的に解析していくそうだ。
そして解析が完了すると相手の次の行動が読めるようになり、まるで少し先の未来が見えるような状態になるらしい。後はその予測に基づいて身体を動かしているだけだと。
だからあんな戦い方ができたのか。攻防一体の無敵のスキルじゃないか。
だが、自分より実力が遥かに上の敵は解析できないし、同じくらいのレベルの敵には時間がかかってしまうらしい。
彼女が言うにはAランク級の敵も普通に解析できるようだ。
そんな事をあっさりと言ってしまうなんて、いったい彼女自身の強さはどれくらいなのだろうか?
そういえばフブキの戦い方で一つ疑問に思ったことがある。思いきって尋ねてみることにした。
「あの……いつも持ち歩いている大剣は使わないんですか?」
「ああ、これか? これは封印してあるんだ。今ではもう、お守りみたいなものさ。戦闘で使うつもりはないよ」
背中の大剣は鞘に納められ、紐で頑丈に縛りつけてあり簡単には抜けそうにない。さらに魔法のようなもので封印を施してあるようだ。
(使わないのなら、持って来なければいいのに……)
そう思ったが、彼女なりの事情があるかもしれない。これ以上詮索するのは止めておこう。
「明日からまた探索の続きだな。もう休もう」
「そうですね。おやすみなさい」
二人の旅は順調に進んでいる。こうして高原での一日が終了するのだった。
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