第12話 旅立ちの朝
いい天気だ。宿屋の部屋の窓を開け、春の心地よい風を全身に取り込む。
ここはデイカフの町。二日前にこの町にたどり着いた。
私は冒険者のフブキ。
訳あって二年程前から世界各地のギルドに出向いては討伐依頼を受けるようにしている。
ここは新人冒険者向けの町らしい。確かに昨日辺りを散策してみたが、脅威になるようなモンスターはいないようだ。
のどかな田舎町で町の人達も優しい。
のんびりと生活するにはいい町かもしれない。
何よりここは御飯がおいしい。
今、寝泊まりしている宿屋の食事もおいしいし、この前訪ねたギルドの食事もかなり気に入った。
昨日もわざわざ食事の為にギルドに足を運んだくらいだ。
ただ、受付のリンだったか。
昨日はなんだか応対が冷たかったな。二日前の騒ぎを怒っているのだろうか?
それともトウマとかいったか、あの冒険者の恋人かなにかだろうか? やっぱり人前で殴るのはまずかったよな……。
ふいに平手打ちしたあの冒険者のことを思い出す。
さすがにこの前はやり過ぎてしまった。今は少し反省している。
でも、なんであんなにアイツにこだわってしまったんだろう? 自分でもよくわからない。
私の事を好奇な目で見てくる奴らは沢山いたし、自分に自信のない奴らだって今まで沢山見てきた。そんな奴らは大体スルーしてきた。
でもあの日、ギルドに入った時からアイツのことがずっと気になっていた。
きっと私より若い冒険者なのだろう。なのに自分自身の可能性を諦めてしまったかのような……そんな眼をしていた。
あの眼を見て無性に腹がたってしまったんだ。
町を散策すると、町の人からアイツの話しを聞けた。
沢山の属性魔法を使いこなす、仕事熱心で優秀な魔導師らしい。アイツのことを悪く言うのは、ぶん殴ってやったクルトとかいう奴だけだ。
出発前に会ってこの前の事を詫びたかったが、結局この二日間会うことはできなかった。
(心残りだがまだチャンスはある。依頼を終わらせたらちゃんとあやまろう)
そう思いながら身支度を済ませて宿屋を出た。
「どうなるかわからないが、とりあえず高原の方へ向かってみようか」
道に迷ったら引き返せばいいんだ。そう思いながら町の入口の所までやって来た。
すると、遠くの方からこちらに手を振っている人物がいる。
「遅いですよ!」
……アイツだ。入口の所で私のことを待ってくれていたようだ。
「まったく、二日後ってアバウトすぎでしょう。時間くらい言って下さいよ。だいぶここで待ちましたからね!」
「どうして……? お前、一緒に来てくれるのか?」
「はい。ギリギリまで引率の仕事をしてました。でも明日からは暫く予定は入れていません。俺をあなたの旅に同行させて下さい」
「そうか、嬉しいよ。そういえばこの前のことなんだが……」
謝罪をしようとしたら手で制された。
「いいんです。あれから俺も色々考えました。あんなに大勢の前で自分の気持ちを話して恥ずかしかったけど、なんだか今はスッキリしてるんです」
私を苛立たせた、あの時の眼はもうしていなかった。
「この町は居心地がよくて、つい自分の居場所を守ることだけに必死になっていたんです。でも、それじゃ前には進めないんだなって気付いたんです」
「楽な旅ではないぞ? それに私と同行したからといって力を手に入れられるとは限らない。それでもいいのか?」
「ええ、構いません。魔王を倒すという夢、俺はやっぱり諦めたくない。そう思えたから……」
覚悟を決めた顔をしている。今のこいつなら自分の背中を預けられそうだ。
「わかったよ。じゃあ行こうか! 私はフブキだ。改めて宜しくな!」
「俺はトウマです。宜しくお願いします!」
お互いに固く手を結んだ。こうして二人の旅は始まるのだった。
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