第7話 これまでの道程
ここはデイカフ。王都から東に向かってずっと進んだ先にある果ての町。娯楽施設等はなくギルドや武器屋なども一つずつしかない、なんの変哲もない田舎町だ。
この町の周りには、雑魚モンスターしかおらず危険なダンジョン等もない。その為、ここらの安全な土地は新人の冒険者が力をつけるにはうってつけの場所で、多くの人がここのギルドを訪れては冒険者になっていく。
この町は冒険者にとっての『始まりの町』として有名な場所なのだ。
そして俺は今、ここのギルドマスターの厚意でギルドの二階の一室に住まわせてもらっている。
仕事が終わり自分の部屋に戻ると、そのままベッドに向かって倒れこんだ。そして仰向けに寝転がって目を閉じた。まだ眠りたいわけじゃない。ただどうにも、さっきの兄弟の姿が頭から離れなかった。
あいつら楽しそうにしやがって……。目がキラキラとしていて希望に満ちあふれているようだったな。
その姿を昔の自分と重ねていた。
黎明の儀式。
あの日から十年の歳月が流れた。
入団が叶わなかったあの日以来、俺は希望に満ち溢れていた。自分の可能性を信じて、朝は魔法の勉強、午後からは剣術と弓の訓練。大変だったけどサボることなく毎日頑張った。
おかげで、火・水・土・風・雷の五つの属性の魔法を扱えるようになり、日々の鍛練の成果もあって身体も大きく、強くなった。
しかし、どれだけ頑張っても例の三つ目のスキルが開放されることはなかった。
いつまで経っても、何をしても解放の糸口さえ掴めない。月日が経つ度に俺は焦り、周りも不安を抱くようになった。そんな日々が三年、四年と過ぎると、皆不安から諦めの気持ちに変わっていったんだ……。
この時期が人生で一番辛かった。スキルが開放されない事も勿論だが、なにより近くで応援してくれていた母が、みるみる元気がなくなっていったからだ。
よく笑って笑顔が素敵な母だった。いつも俺のことを励まして最後まで味方でいてくれた。しかし、うまくいかない俺を想う気持ちと、周りからのプレッシャーで母は精神的にまいってしまったんだ。
そして次第に、母は笑うことができなくなってしまった……。
このままではいけない! そう思って十五歳の誕生日の時に自分から切り出したんだ。
「家を出て、冒険者として外の世界を見てみたい」ってね。
皆、厄介払いできると思ったのか俺の提案はあっさりと受け入れられた。
あれよあれよと事は進み、三日も経たない内に旅の支度は全て完了されていた。
……きっとこれで良かったんだ。俺は家族を捨て、フィリス家という貴族の地位も捨て、冒険者になる道を選んだ。……もうあの家に戻るつもりはない。これ以上、大好きな母を悲しませたくなかったから。
そうして俺はこのデイカフの町にやってきた。場所はどこでもよかった。とにかく王都から遠く離れたかったからこの町にした。十五歳の時にここに来て冒険者登録を済ませた。それから数々の依頼や討伐をこなしていたら、気づけば五年の月日が流れていた。
ここで現在の俺の状態について説明しておこう。
名前はトウマ。今はトウマ・ル-クスと名乗っている。年齢は二十歳の冒険者だ。少年の頃は小柄でひ弱だったが、今では背は大きく伸び、身体も筋肉がついてがっしりとしている。黒みがかった紺色の髪で、容姿は自分ではよくわからないが、俺に好意を持っている女性がいるという噂を聞いたので、悪くはないと思う。
次にステータスについて話そう。
三つ目の謎のスキルは残念ながら未だに開放されていない。
魔法は五つの属性の魔法に加え、回復魔法と策敵魔法を使えるようになった。
そして、スキル【魔法王の加護】に関してだが重大な欠陥があることが解った。
スキルの説明文を見ると、威力は初期値で固定と表記されている。
ずっとこの部分の意味がよく解らなかった。だが他の冒険者と討伐を繰り返していく内に、自分と彼らとの違いに気付いたのだ。
一般的に魔法という物は、使えば使い込む程にその魔法への理解が深まっていき、初級魔法から中級魔法へ。そしてさらなる高位の魔法へと時間をかけて段階的に習得していく。
けれども俺にはその感覚がわからない。いくら使い続けても、何も変わらず初期魔法の威力のままで上位の魔法へと昇華するようなことはなかった。
さらにもう一つ困った欠陥があった。
理由はよくわからないのだが、俺は魔法を使うと五秒から十秒程の謎のクールタイムが発生する。つまり魔法を連続して撃つ事ができないのだ。
初級魔法の威力でもマシンガンのように連発できれば、まだ戦いようはあったのだけれど……。
まとめると、俺はあらゆる属性の初級魔法しか使えず、かつ単発でしか魔法を放つことができない魔導師。
これが現在の俺自身について判っている事だ。
残念ながら冒険者としての伸び代は俺にはもうない。なんせ魔導師をかたっていながら、肝心の魔法が成長していないのだから。
同じ時期に冒険者登録をした仲間達は、順調にステップアップしてこの町から出ていった。この町の出身でもないのに、五年もここにいる冒険者なんて俺くらいなものだ。
初級魔法しか使えない俺が受けられる依頼は少ない。だから当然稼ぎは少ない。
困っていた俺に手を差し伸べてくれたのは、ギルドマスターだった。
『新人冒険者の引率』
俺の為に作ってくれた仕事だ。
始めた当初は不安だったが、自分にはこの仕事がすごく合っていた。
新人冒険者が受ける依頼なので敵は基本的に弱い。初級魔法でも一撃で葬ることができるレベルだ。
ここには沢山の冒険者がいるので、各種属性魔法に回復、剣術、弓を扱える俺は、それぞれの冒険者達のニーズに応えることができる。これはまさに天職だと思った。
それからは地道に引率の仕事を頑張った。生きる為に必死だったから。おかげで贅沢をしなければ普通に生活できるくらいには稼げるようになってきた。救ってくれたギルドマスターには本当に感謝しかない。
ベッドから起き上がると机に置いてあった手帳を手に取った。この仕事を始めてから使うようになった俺の大事な相棒だ。手帳には、引率する日程やパーティーの名前とメンバー各々の特徴、そのパーティーを引率した回数等を記録している。
「どれどれ、明日の仕事は……夜間の討伐か」
俺を必要としてくれる人がいる。ならば俺はそれに応えるだけだ
気を引き締めて明日もまた頑張ろう。
手帳を眺めながらそう誓うのだった。
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