第6話 始まりの町 デイカフ

「ヒール!」


 倒れている少女に回復魔法をかけると、淡い光がその身を包み込んでいった。

 

「うっ、うぅ……」


 ……よかった。いくらかダメージは残っているが、少女はなんとか意識を取り戻してくれたようだ。


「とりあえず今はこれで我慢してくれ。今度は兄貴の方を助けにいってくる」


 そう言うと前線で一人戦っているであろう少年のもとへと走った。


 

 少女のいた場所から少し進むと、前方にはサル型のモンスターと必死に戦う少年の姿があった。そしてその上空からは、二匹のトリ型のモンスターが少年の隙を伺うように浮遊している。


 あいつに三対一の状況は厳しいだろうな。上空の敵は俺がなんとかしてやるか。

 背面にしまっていた弓と矢を取り出すと、トリ型の一方に狙いをつけて矢を放った。

 

 ……一発目が胴体に、そして間髪を容れず二発目を放つと、見事に頭部に命中しモンスターは叫び声を上げながら落下していった。


 狙い通り倒すことができたようだ。だがその間、残りのもう一匹が空中から少年に狙いを定め攻撃態勢に入っている。あまり時間をかけてはいられない。


(時間も経ったし、そろそろいけるだろう。やってみるか!)


 持っていた弓を素早く足下に置き、素手の状態でもう一度構えを作り、弓を引くような姿勢をとった。


「ファイヤーアロー!」


 そう叫ぶと炎で形成された弓と矢が現れた。そして、先程の要領で狙いを定めながら炎の矢を放つと、それはもう一匹の方にめがけて飛んでいった。


 放たれた炎の矢は見事に直撃し、空中のモンスターは炎に身を焼かれながら落下していった。

 よし、上空の敵は一掃することができたな。戦っている少年にも被害はないようだ。残るはサル型のモンスターだけとなった。


「助かりました。トウマさん」


少年の息づかいは荒く、体力もかなり消耗している。


「あとはこいつだけだな。苦戦するかもしれないが一人で戦ってみろ。落ち着くんだ! 冷静に対処すれば勝てる相手だ。危なくなったら援護してやるから」


「……わかりました!」


 敵はFランクの雑魚モンスター。これくらいなら大丈夫だろう。少し離れた場所から少年の戦闘を見守る事にした。お互いになかなか決め手がなく泥仕合になったが、少年の振り回した剣が運良く急所に当たり、敵はその場に崩れ落ちた。


「よっしゃー!! やったぞ、討伐完了だ!」


「すごい! 頑張ったね、お兄ちゃん!」


 先程回復をしてあげた少女も復帰して、お互いに健闘を称えあっている。


「トウマさん援護ありがとうございました。なんとか勝てましたよ! それで……俺達の闘いぶりはどうでしたか?」


 まるで餌を待つ動物のような様子で、二人並んで俺の方をじっと見つめている。きっと初めての勝利を称えて欲しいのだろう。だが、残念ながらそういう訳にはいかない。


「おいおい、何言ってんだ? 全然ダメだ! 理由はわかってるよな?」


「……はい、自分のミスですよね」


俺の反応に二人の笑顔は消えていった。 


「そうだな。妹が攻撃を受けたのはお前のミスだ。サル型のあいつはピンチになると死んだふりをするんだ、とどめを刺さずに生死の確認を怠ったな、それで不意をつかれた妹があいつの攻撃を受けてしまったんだ」


「すいません。飛行しているモンスターの方が気になっちゃって……」


「そっちは妹の方のミスだな。討伐は基本一体ずつだ、いきなり派手な雷魔法なんて撃つもんだから、トリ型の魔物に気付かれて三体同時に戦うはめになったんだぞ!」


「ごめんなさい……」


 無邪気にはしゃいでいた二人だが一転して重苦しい空気が流れる……。

 さすがに言い過ぎたか。今にも泣き出しそうな妹の表情を見ると、なんだか可哀想に思えてくる。


「……でもまあ、二人ともこうして無事だったんだ。反省すべき点はあるが、よく頑張ったな。今回の討伐は成功だよ」


 そう言ってやると、再び兄弟に笑顔が戻った。色々あったが二人の護衛の任務が完了した。その後も三人で戦闘の反省点を挙げながら拠点の町へと帰った。


 

 暫く歩くと拠点の町デイカフの入口に到着した。兄弟とはここでお別れだ。


「無事到着だ。これで任務完了だな。ではお前達はギルドで報告を頼んだぞ」


「ありがとうございましたトウマさん。本当に助かりました! ギルドマスターに言われた通りでしたよ」


「ん? あの人に何か言われたのか?」


「新人の冒険者はトウマに引率してもらえ、あいつなら必ずなんとかしてくれるって」


「そうか……」


 恩人からの評価を聞くと、恥ずかしさと嬉しさが混じったような、なんとも言えない気持ちになってしまう。


「それでトウマさんお願いがあるんだ。できれば次の討伐の時も一緒に行動して貰えないかなって……」


「……いいよ。じゃあ君達の方からギルドに伝えておいてくれるかい?」


「ありがとうございます! また宜しくお願いしますね!」


 兄弟がこちらに向かって手を振りながら離れていく。二人の姿が見えなくなると、町を回って消耗した矢や薬を買い揃えた。一通りの準備を終えた後、自分もギルドへ戻ることにした。


 

 

 冒険者ギルドに到着すると任務の報告をしに向かった。受付で応対してくれたのはギルドマスターの一人娘、リンだ。


「お疲れさまでしたトウマさん。聞きましたよ! 今日も大活躍だったみたいですね」


 明るくて、いつも笑顔で接してくれる素敵な子だ。ギルド内でも人気の看板娘だ。


「さっき来た新人の兄弟、次の討伐の時もトウマさんにお願いしたいって言ってましたよ!」


「そうか。あの兄弟はまだまだ危なっかしいからな。できるだけ自分が見てあげたいから、予定を合わせてやってくれるかい?」


「了解しました。では、これからどうしますか?」


「そうだな……。明日も別のパーティーの仕事があるからな、今日はもうあがるよ」


「わかりました。じゃあ後で食事を用意しておきますね」


 

 これで今日一日の仕事は終了だ。大きな問題が起きなくてよかった。

 ほっと胸を撫で下ろすと、ギルドの二階にある自分の部屋へと帰っていった。

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