第5話 ある日の会話

「アルバース。居るのかー」


 ドンドンっと荒々しくノックされると、彼は返事をする前に私の部屋に入ってきた。王国騎士団、剣士部隊の師団長のクライフだ。


「なんだ、お前か」


 相手をする気分ではなかったがせっかく訪ねてきてくれたのだ、クライフの為に紅茶を入れて一服することにした。彼とは同期で、騎士団の中でも気兼ねなく会話ができる昔からの友人だ。


「お疲れのようだな」


 式典の業務を終えたばかりのクライフを労う。


「ああ、なんとか今年の儀式が終わったよ。やっぱり俺には城内の仕事は向いてないな。討伐や護衛に行ってる方が気楽でいいわ」


 クライフは儀式の立ち会いの仕事にうんざりした様子で項垂れた。


「そんなこと言うな。一年に一度の師団長の大事な仕事なんだ。それに交代制だから、次にお前が立ち会いを務めるのは数年後だろう。少しくらいは我慢しろ」


 フォローしてやったが、あまり納得していないようだ。


「……それで、今回はどうだったんだ?」


「儀式の成果か? 駄目だね。使い物になりそうなヤツは一人もいなかったな。合格者がナシだと上の奴らも具合が悪そうだから、適当に三人くらいは合格にしてやったがな」


「お前はいつも厳しいよな……」


 クライフは実力主義だ。自身も剣術の腕と討伐の実績で師団長にまで登りつめた、たたき上げの人間だ。騎士団内では剣聖クライフと呼ばれ、周りからの人望も厚い。


「違うな、お前が甘過ぎるんだよ。去年、お前が立ち会いを務めた時は何人合格させたんだっけ?」


「……十人くらいか」


「それで、ものになりそうなヤツはいたのか?」


「……まだ入団して一年だぞ。それを見極めるには早すぎるだろう」


「そうかねえ……」


 クライフに痛い所をつかれてしばらく沈黙してしまった。


「……ところで、去年お前の所に面白いヤツが居たんだってな。スキルが解析不能だったってのが。そいつは今どうしてるんだ?」


「知らん。その子は入団させなかったからな」


「えっ!! 本当か? なんで?」


「……得体が知れなかったからな。それに、そんな奴どう育てていけばいいか解らなかったんだ」


 クライフは目の前の紅茶をぐいっと飲み干すと、座っていた椅子の背にもたれかかった。


「保守的なお前らしい考えだなぁ、俺だったら絶対そいつを獲るね。だって面白そうじゃないか。得体が知れないヤツの方が、ハマった時に爆発的に伸びるからな」


「……いかにもお前らしい考え方だな。まあ心配するな、私が獲った新人達も着実に力をつけているから」


 そう言って自分の紅茶を飲み干した。


「お互い忙しい身だ。そろそろ互いの仕事に戻るとしようか」


 話を切り上げて席を立とうとすると、ふいにクライフに腕を掴まれた。


「俺は愚痴を言いにここに来たわけじゃないんだ。確認したい事がある。アルバースお前、最近変じゃないか?」


「……そうか?」


「ああ。戦力になるかもわからない奴を騎士団に大勢入れたりして、以前のお前ならそんな事はしなかったはずだ。なんだか余裕がないような感じがしてな。お前、大丈夫か? ……何か困っているんじゃないのか?」


「もしかして心配してくれてるのか? 大丈夫だよ。確かに、最近上手くいかない事があって色々と焦っていたのかもしれない。気を付けるよ、忠告ありがとう」


 まだ何か言いたげな素振りのクライフを見送ると、自室に戻り椅子に深々と座り直した。

 そして、大きく息を吐きながらぼんやりと部屋の天井を見上げた。


「そりゃ焦るさ。だって私にはあまり時間が残されていないのだから……」

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