第4話 ステータス

 皆、部屋に入ると椅子に座り一息ついた。

 私とトウマが隣り合わせで座り、向かいの席には将軍が腰掛けている。これからトウマのステータスについて説明が行われるようだ。


「本日はお疲れさまでした。儀式のほうは無事終わりました。では、後が控えているので早速始めましょうか。トウマ君、ステータスを出してもらえるかな?」


「わかりました」


 指示された通りにトウマがスキルを使うと、目の前にはウインドウが表示された。


「奥様もご覧になって下さい。それではまず、トウマ君のパラメーターについてなのですが……。筋力や体力等の身体的な数値は平均か少し低め、といった感じでしょうか。一方、魔力やMP等の値は十歳にしてはかなり高い値だと思われます」


「……そうなんですね」


「分かりやすく言うと、トウマ君は典型的な魔導師タイプの成長傾向にあると思われます」


 (運動が苦手なトウマらしいわね)


「次にスキルの方を見ていきましょうか」


 視線を横の方に移すと、いくつかのスキルがあるようだ。ステータス画面を眺めながら将軍が説明を続けた。


「まず【MP回復速度 大】を持っていますね。一般的に魔法を使いMPを消費すると、皆少しずつ自然に回復をしていくのですが、トウマ君はその回復のスピードが生まれつき速いようです。このスキルを所持している人は稀で、かなり有用なスキルだと思いますよ。

 そして次に【魔法王の加護】という珍しいスキルがありました。これは説明が難しいので、奥様自信で確認してもらってもよろしいですか?」


 ウインドウのスキルの部分に本人が触れると、そのスキルについて詳細に知る事ができる。将軍に促され、トウマは【魔法王の加護】の部分に触れた。



【魔法王の加護】

 あらゆる魔法属性に対して素養を持つ。魔法の知識を得て、経験、修練することで魔法を発動できるようになる。

 なおされる。


 

 一通り確認が終わると、将軍が解説を続けた。


「これまで多くの立ち会いを務めてきましたが、このようなスキルは見たことがありません。説明文から察するに、トウマ君は全ての属性に対しての素養を持っているようです。先程、試しに宮廷魔導師を呼んで火属性の魔法をトウマ君に教えてみたのですが、原理を理解させて少し訓練しただけで、すぐに火属性の魔法を発動できるようになったんです!」


 将軍は興奮が冷めやらぬ様子だ。


「これは凄い事ですよ! 魔法というのは、素養を持たない属性に対しては、いくら努力をしようとも使えるようにはなりません。我が騎士団の魔導師団長でさえ四つの属性しか扱えないのです。ですから今後トウマ君は、努力次第ではあらゆる属性の魔法を使えるかもしれない。ということなんです」


 トウマは憧れの人に誉められて得意気な表情をしている。


「パラメーターの傾向、そしてこの二つの固有スキルを鑑みると、トウマ君は魔導師としての道を歩ませるのがいいかもしれません。もしかすると、将来世の中に名を残す程の大魔導師になるかもしれませんな!」


 思った以上にトウマの事を高く評価をしてくれているようだ。これは、もしかしたら……


「ではこれからどうなるのでしょう? 息子は騎士団に入団することになるのでしょうか?」


「いや……」


 そう言うと、トウマと将軍の表情が曇った。


「残念ながら今回の入団は見送ることになりました」


「なぜです! 良い評価をして頂いたのではないのですか?」


「もちろん、ご子息は素晴らしいスキルを持っていました。ただ、少し問題がありまして……それは、これなんです」


 そう言って将軍はスキルの欄の、ある部分を指さした。【MP回復速度 大】【魔法王の加護】の下に記された三番目のスキルを……。


【■■■■■■■】


 ……何なのだろう? これは。何かのスキルのようだけれど、スキルの欄のその部分だけが気味の悪い黒色で塗り潰された状態になっていて確認することができない。トウマがその部分に触れてみるが何の反応もないようだ。


 実はトウマのウインドウを見たときから、この黒塗りの違和感には私も気付いていた。こんなこと自分のステータスにも、上の兄達のステータスにもなかった事だからだ。


「問題というのはこれなのですね? この黒い部分は一体何なのでしょう?」


「……わかりません。これがスキルなのか何なのか、それすらもわからないのです。結論から申し上げると、解析不能ということになりました」


 解析不能? そんなことがあるのだろうか。横にいるトウマは現実を受け入れられずにうつむいてしまった。


「解析不能なんて事は初めてのことなんです。ですから私達も、どう対応してよいかわからないのですよ」


 そう言うと、将軍は座っていた椅子からゆっくりと立ち上がった。


「私としてはトウマ君を騎士団に入れ、育てるという方針を推したのですが、得体の知れないスキルを持つ者に対して、入団の枠は与えられない。という意見に押し切られてしまいましてな……。奥様、力になれず申し訳ない」


 将軍は深々と頭を下げた。


(そう……。トウマ……騎士団入りは叶わなかったのね)


 トウマはかなりのショックを受けているようだ。なんて声をかけてあげればいいのだろう。

 少しの沈黙の後、将軍は頭を上げると優しくトウマに語りかけた。


「トウマ君。今回は残念な結果になってしまって申し訳なかった。でも君が素晴らしい才能を持っているのは確かなんだ。今は悔しいだろうが、どうか前を向いて欲しい。腐ることなくこれから精進して、心も身体も成長させていってもらえないだろうか?」


 そしてトウマの手を握って続けた。


「もし君が大きく成長して、この解析不能のスキルを解き明かす事ができたなら、再びリーファ城の門を叩いて欲しい。私はいつでも君の事を待っているからな!」



 

 こうして黎明の儀式は終了した。

 

 将軍と別れトウマと共に城を出る頃には、辺りは夕焼けで赤く染まっていた。帰宅途中、暫くの間二人で会話をすることもなく歩き続けた。脳裏には色々な言葉が駆け巡っていたが、気落ちしているトウマにかける言葉が見当たらなかった。


「ねえ、母さん」


「ど、どうしたの?」


 不意にトウマが話しかけてきた。


「ごめん。結局僕も選ばれなかったね」


 そう言ったトウマの表情は悔しさを必死に押し殺しているようだ。


「なんとなく気づいてたんだ。父上も周りの皆も、僕にはあまり期待してないって事に。それもそうだよね、僕は兄さん達みたいに優秀じゃない。勉強だって運動だって二人みたいに要領よくはできないんだから……。でも、……でもさ! 僕なりに努力してきたんだ。騎士団に入りたいって思いは誰にも負けてないはずだったんだ!」


トウマは今にも泣き出しそうだ。


「……そんなことない」


「えっ?」


「今日、あなたは本当に頑張った。だから謝る必要なんてないの。ただ、少し上手くいかなかっただけ。あなたの事、まだまだ子供だと思っていたけれど、覚悟を決めて一人で儀式に向かう姿、立派だったわ。母さんはそれだけで充分よ」


「で、でも……」


「それにねトウマ。あなたの願いは本当に終わってしまったの? アルバース様がおっしゃった事をよく思い出してみて」


「アルバース様は……。……頑張れって。……待ってるって!」


 トウマは何かに気がつき、ハッとした表情を浮かべた。


「そう。あなたの道は閉ざされてなんかいないわ。……こう考えてみない? 今日の挫折は目標への始まりの一歩だって」


「……そうだね。確かにそうだ! 母さん!       僕、明日から頑張るよ。勉強も頑張るし苦手な剣術訓練、馬術だってサボらずに毎日やるよ」


「そうよ。大事なのはこれからよ! わかったわ、じゃあ明日から厳しくいきますからね!」



 トウマの未来はきっと明るいはず。辺りを照らすこの夕日のように……。

 希望を胸に、二人は手を繋いで家路につくのだった。

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