第3話 客室にて
「結構時間が掛かっているわね。まだなのかしら……」
エルザは客室の窓辺に立ち、眼下に広がる王都の城下町を眺めながら呟いた。
トウマを見送った後、私は城内の客室の方へと案内された。この部屋で儀式の結果が伝えられる手筈になっている。
部屋には一人の侍女がついてくれていて、身の回りの世話をしてくれる。お茶を頂いたり、世間話などをして過ごしていたが、さすがにやることもなくなってきた。やはり何度来てもお城の雰囲気には慣れないわね。
(ここに来るのもこれで三度目か……)
私には三人の息子がいる。
頭脳明晰で馬術や剣術が得意な天才肌の長男ユウマ。
学業や武術で着実に結果を残す、堅実で、努力家の次男フウマ。そして今、儀式を受けているのが三男のトウマだ。
トウマの性格はまだ掴みきれていない。勉強は好きでそれなりに頑張っているようだけれど、武術や乗馬等の体力的な訓練はあまり好きではないみたい。気分屋でやる気が出ない時には、訓練をサボって家の屋根の上て寝転びながら、ずっと空を眺めたりしている。
上の兄二人には騎士団入りを期待していたし、本人達も強く望んでいた。しかし、それぞれが黎明の儀式を終えた時、残念ながら騎士団から声がかかる事はなかった。二人共、当時は相当落ち込んでいたけれど、今は新たな目標を見つけて前に進んでくれている。優秀な二人の兄達がお呼びがかからなかったのだ。正直、トウマも厳しいかもしれない……。
(って、私が弱気になってどうするのよ!)
今トウマは頑張ってるんだから、私は信じてあげなくちゃ。別れ際にトウマに伝えたことは紛れもない素直な自分の気持ちだ。大好きで大切な我が子だ。もし、今回も希望が叶わなかったとしても、「よく頑張ったわね」と言って抱きしめてあげよう。
そんなことを考えていたら、今まで世話をしてくれていた侍女が、一礼して部屋から出ていった。
(いよいよか……。あぁ、ついにこの時がきたのね)
予想通り、それから少し時間が経つと部屋のドアがノックされた。
「……どうぞ、お入りになって」
ドアが開いて、そこからひょっこりと顔を出したのはトウマだった。
数刻離れただけなのに、もう何日も会っていないような気持ちになった。久しぶりの我が子の顔を黙って少しの間見つめる。……が、トウマの表情からは儀式の結果は推察できない。
「お疲れさま。よく頑張ったわね」
トウマをぎゅっと抱きしめた。
「うん、長かったー。さすがに疲れたよ」
「そうね。結構な時間が経っているもの」
「色々とあったんだけどさ、アルバース将軍が付いていてくれたから全然大丈夫だったよ。それでね……」
その後もトウマと儀式の話をするけれど、なかなか会話が核心に触れない。しびれを切らして、つい尋ねてしまった。
「それで、儀式の結果はどうだったの?」
「結果? 結果はね……」
そう言うとトウマの表情が曇ったような気がした。そのまま少しの間沈黙が続いた。
「……よくわからないんだ」
「えっ?」
この子は何を言っているんだろう?「騎士団から声が掛かった」、或いは「駄目だった」以外の返事が返ってくるとは想像していなかった。
思いもよらないトウマの返答に困惑しているとドアが再びノックされた。そして次に現れたのはアルバース将軍だった。
「奥様お待たせ致しました。息子さんの件、ここからは私に説明させて下さい」
「そうですか……。わかりましたわ」
将軍自ら説明しにやって来るなんて。上の二人の兄弟の時には無かった展開だ。
(一体、トウマに何があったのかしら?)
一抹の不安を抱きながらも将軍を部屋の中に招き入れるのだった。
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