第1話 黎明の儀式

『黎明の儀式』

 

 この世界ではそう呼んでいる。


 待合室の奥の部屋には〈解析の宝珠〉といわれる物が設置された祭壇があり、そこで儀式は行われる。儀式は簡単なもので、参加者はその宝珠に触れるだけで済むらしい。


 宝珠に触れると【ステータス】のスキルが授けられ、自分の現在の状態を可視化できるようになるのだ。

【ステータス】を使えば各種パラメーターとその時点で所持しているスキルが表示されるようになるらしい。


 解析の宝珠は、この他にも大きな街のギルドなどで同様の物が設置・管理されていて、多くの人は最寄りのギルドで儀式を済ませている。


 

 現在、僕は王都の中心にあり世界の中枢とも呼ばれている〈リーファ城〉の中にいる。


 普段は王都に住んでいる住民であっても重要な要件がない限り入城することはできないが、この儀式が開催される時だけは誰もが城の中に入る事を許されている。


「もう十歳になったのね。なんだかあっという間だわ、あなたにもようやくステータスが授けられるのね!」


 エルザはそう言いながら時の流れをしみじみと感じているようだ。

 黎明の儀式を受けるには一つだけ条件がある。それは年齢が十歳を過ぎた者が受ける。というルールだ。


 ずいぶん昔の頃には特に年齢制限はなかったそうだ。しかし、赤子や幼児の時に儀式を受けて、固有スキルに恵まれなかった子供たちが捨てられる。あるいはスキルに恵まれた子がさらわれたり、売られたり、という事件が多発したため、現在の年齢制限のルールが作られたらしい。


 黎明の儀式を最寄りのギルドで行う場合、料金等は殆どかからない。しかし、このリーファ城に於いては利用料としてお金を支払わなければならない。しかもかなりの金額をね!

 

 それでもこの城での儀式を希望する人は絶えない。理由は簡単、ここで儀式を行うと、ある特典が付いてくるからだ。


 街のギルドの場合ギルドマスターの立ち会いのもと儀式が行われる。

 一方、こちらでは王国騎士団の師団長クラスの人物が立ち会いをしてくれるのだ。


 多くの参加者がここに集まる理由がこれだ。もし、自身のパラメーターや固有のスキルが立会人の目にとまれば、騎士団入りを推薦されたり、城内での仕事を斡旋して貰えるようになるってわけだ。

 王都での平和で安定した暮らしを望む者、騎士団に入って地位や名声を得ようとする者。ここに参加をしている者達は、それぞれに夢や野望を抱いている。


 

 もちろん僕にもある。誰にも……。母親にだって言っていない野望が。


 

 西の果て、何処かに住んでいると言われている魔王。魔王の軍勢は前触れもなく現れ、破壊と殺戮の限りを尽くしていく。長きにわたって世界に恐怖と絶望をもたらし続けている悪しき存在。我々はそれに対抗する術はなく、ただ自分の住む土地が襲撃されないことを願う事しかできない……。

 


(魔王は強大な敵に違いない。でも、誰かが魔王を滅しない限り、本当の意味の平和なんて来ない。今日が、その最初の第一歩になるんだ。よし! 絶対に立会人の目に留まってやるぞ!)


 すると、遠くから聴こえていた足音が次第に大きくなり、そしてピタリと止んだ。いよいよ始まるんだ。

 

 ギィーっと音を立て、待合室の目の前にある大きな扉が開かれていく……。


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