魔法王記 ~初級魔法しか使えないけど世界を救いにいってもいいですか?~
蒼夜 歩
プロローグ
今、僕はお気に入りの夢の中にいる。
西の果て、荒廃した大地にそびえ立つ魔王の城。そこへ勇者となった自分が単身で乗り込む。相対する魔王はとても強大な敵だ、誰も敵いはしない。
でも心配は要らない。ここは僕の夢の中、どうとでもなるんだ。
自分のステータスは全てMAXのカンスト状態。いわゆるチート状態というやつだ。
迫り来る魔王の激しい攻撃を悠々とかわし、こちらは強烈な斬撃を、急所目掛けて的確に浴びせ続けていく。
「う、うぐっ……」
魔王はかなりのダメージを負ったのか、うめき声をあげながら二歩、三歩と後退りをした。
よし! 敵はだいぶ弱ってきているみたいだ。そろそろ決めるか!
「この一撃で終わらせてやる!」
右手に持つ剣に向かって、ありったけの魔力を流し込むと、それに応えるように剣は強く、眩しく光り輝き始めた。
この必殺技を放って魔王を葬る。そして世界には平和が訪れる……。
ここまでがいつも見ている夢のワンセット。のはずだったのに。
「……」
何だ?
何かが聴こえてくる。頭の奥の方から声が響いてくる。何だか呼ばれているような気がする。こんな展開は今までなかったはずだ。
「……!」
「もう少しだけ待ってくれ! 今いいところなんだ。魔王を討ち倒す重要な場面なんだよ!」
「…………!」
駄目だ。響く声は止んでくれない。それどころか次第にその声は大きく、鮮明になってくる。
「……マ、ト……マ、……ウマ。……トウマ!」
強い口調で名前を呼ばれてようやく目が覚めた。辺りを見渡すと見覚えのない景色が広がっていた。
かなり広い部屋のようだ。室内の柱や壁には立派な装飾品が飾られていて、天井には宝石のように輝く豪華なシャンデリアが吊り下げられている。部屋の中には沢山の人がいて、それぞれに雑談でもしながら時間を潰しているようだ。ここは……どこだっけ?
「あなた、まさか居眠りしてたの?」
横に座っている女性が僕の身体を揺さぶりながら話しかけてきた。さっきも聞いたようなこの声……。夢の中で響いていた声の主は、母エルザ・フィリスのものだった。彼女は寝ぼけている自分の様子をみて呆れているようだ。
「ごめんなさい、母さん。長い間待っているのがあまりに退屈だったから、つい……」
エルザとの会話でようやく自分の置かれている状況を思い出してきた。
辺りには、同じように沢山の人がこの部屋に用意されている椅子に座って何かを待っている。
ざっと五十人以上はいるだろうか。
「トウマ……。今日はあなたにとってすごく大切な日になるのよ。わかってるでしょう? しっかりして頂戴!」
返す言葉もない。
エルザの言う通り、今日これから行われる儀式は、自分にとって重要な意味を持つことになるからだ。
「こんな時まで居眠りなんて、あなたらしいというか……。でも、緊張でガチガチになるよりはいいのかもしれないわね。じきに始まりますよ」
そう言って優しく語りかけてくれた。その時だった。
(ザッ、ザッ、ザッ)
待合室の奥にある扉の方から複数の足音が近づいてきているようだ……。ついにこの時が来たんだ。僕にとってとても重要なイベント
『黎明の儀式』が今、始まろうとしていた。
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