第6話 手がかり
事務所に帰った森園はストックしてあるジャックダニエルをグラスに注いで一口飲んだ。独特なピート臭が鼻から抜けていき、鼻腔の粘膜を心地良く刺激する。
ジタンカポラルに火をつけ香ばしい芳香を楽しみつつ、
外から差し込む光に映し出された紫煙がゆっくり揺らめくのを眺める。
5分程、微睡(まどろ)んでから、思い出したかのように石橋へ電話をかけた。
1分弱の沈黙の後、石橋が電話に出た。
「もしもし」
「さっき証拠品倉庫から帰ったんだが気になる事があった。」
「テントに入った時に笑気ガスの香りが僅かだが残っていた。」
「考えられるのは恐らく誘拐、三人とも恐らく笑気ガスで深い鎮静状態にされた可能性がある。笑気ガスを容易に手に入れられる立場、扱える経験、知識が必要な為、医療関係者などの人物像が想像できるが、動機は未だ不明。
事件前後日のキャンパーの洗い出し、夫妻への起床時の聞き込み、主に体調面について、娘の通院履歴、健康診断データ、夫妻側の関係者のリストが欲しい。」
「テントに外から開けられた穴があった」
「単独で出来ない事もないが、恐らく複数犯の可能性が高い。」
「わざわざキャンプの時を狙ったのは予め目撃者が出る可能性を減らすのと、笑気ガスを使用すれば日中より連れ去りが容易だからだろう。」
「郊外で日中を狙うよりそちらの方が成功率が高くリスクを抑えられる。」
「ただし夫妻がキャンプをした事は、犯人側にとってはただの幸運に過ぎなかった気もするが。」
「娘自体に関心があり監禁等を含めた連れ去りの場合は単独が多く、衝動的、わざわざキャンプ時を狙うとは考えにくく、その為犯行に荒さが目立ち、なんらかの痕跡がある場合が多いが、今回は笑気ガスを用いての犯行、恐らく複数犯、組織的な者の犯行かもしれない。」
「彼女自身、又は彼女の別の見解の価値が存在するのかもしれない。」
「彼女の学業の成績も合わせて学校関係者の調査、手に入るなら支給、彼女のDNAデータが欲しい。」
「後、彼女に関係する全ての周辺人物の前科履歴と金の動き、身代金が目に見えるモノだけとは限らない」
「夫妻宅の盗聴器の有無。」
「それで色々みえてくるかもしれない」
「今の段階では、それ位だ。よろしくたのむ。」
石橋はにわかに動き出した事件に興奮を抑えつつ、わかったと言って携帯を切った。
「まったく、やってられないな。人員を割いて抜かりなく捜査したつもりでも、こうして穴が見えてくる。
外部の人間だからこその部分もあるかもしれないが、まあ馬鹿と鋏(ハサミ)は使いようって事だな。
しかし俺がヤツを使っているのか?使われているのか?
間違いなく森園は馬鹿ではない。考えるのはやめにしよう。
事件が解決すればそんな事はどうでもいいことだ。
俺は手段は選ばない。使えるものがあるなら全て使う。」
そして真田に指示を与えるべく再び携帯を手に取った石橋であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます