第5話 森園という男
アパートに森園を送り届けた真田は、そのまま警視庁の石橋のいる執務室を訪ねた。真田自体が待機する部屋などはまだ用意されていないだ。
執務室のドアをノックし石橋と向かい合ってソファーに腰かけた。
「ご苦労さん。」石橋が労いの言葉を掛けた。
「どうだった?奴の印象は?」
「あの、、、、未だに混乱している、といいますか理解出来ない事が多すぎて、戸惑っています。」
「石橋警視正、あの人大丈夫なんですか?」
「ああ、あれでいいんだよ。」
「まあ面通しも済んだ事だし、詳しく説明しよう。」
「どこから話せばいいか迷うところだが、まず私と森園の関係から話そうか。」
「ヤツとは大学の同期で私は法学部、ヤツは医学部だったんだ。」
「二年の時に飲みの席で一緒になり、趣味や価値観なんかが、似たような所があって仲良くなったんだが、自分で言うのもなんだが、後に私は最終的には首席で大学を卒業したが、ヤツはいつも留年ラインぎりぎりを彷徨う感じに見えたんだ。見えただけで実際はそうじゃなかったんだが。というのはある時に流行りのような感じで仲間内でIQテストをやったんだが、周りは私も含めて平凡な結果だったんだがヤツの結果が、ずば抜けて成績が良かったもんだから不思議に思って聞いてみたんだ。
大学の成績はギリギリなのに結果は何故こうなるんだと。するとヤツはこう言ったんだ。
「別に他人に全て見せる必要もないし、教える気もない。」
「卒業すれば皆同じじゃないか。」
「君はわざわざ履歴書に優秀な成績で大学を卒業しましたとでも書くつもりかい?」
と抜かしたんだ。IQテストも大学の試験もただのお遊びじゃないかと。
たまに家に遊びにいっても酒飲んでゲームしてるだけなんだぜ。」
「私ははっきり言って他人より多くの時間を使い勉強して成績を稼いだ人間だ。だがヤツはそうじゃなかった。六法全書の一ページ覚えるのに10秒かからないんだぜ。考えられるか?真田君。まあそんな事もあってヤツの事を一目置くようになったんだが。」
「問題は大学を卒業した後だ。私は卒業後、警視庁に入庁し9年が過ぎた頃に突然ヤツから連絡があった。」
「そろそろ君も良い立場になったろうから良いタイミングだなと思って連絡したんだ。」
「この程、警察専門探偵事務所を立ち上げたんだが、君に一報を入れて置こうと思ってね。」
「時間があるときに連絡をくれ、色々話合わないか?じゃあ。」
「言ってる意味が分からず憤慨気味で実際に会って話をしたんだが、じゃあ試しに
暗礁に乗り上げていた事件の概要を話してみたんだ。すると三日も立たないうちにレポートを寄こしたんだ。そのレポートに基づいて捜査を進めると、その案件は片付いてしまった。詳細は省くが、その件でヤツの能力が立証されてしまった。この件を境にヤツに捜査協力を頼むようになり(話を聞くだけで実際に捜査をするのは私と警察だが)、昨年まで自腹で支払っていた報酬と微々たる捜査協力費を、晴れて私が立ち上げた未解決事件担当部署の予算で支払う事が出来るようになったのだが。依頼自体は非公式のままだがね。」
「あの、、森園さんは医学部と仰ってましたが医者にはならなかったんですか?」
「後で聞いた話だが、大学を卒業して研修を終えた時期に交通事故で昏睡状態になり7年間眠り続けていたそうだ。」
「そして目が覚めて初めてヤツが酒を吞んだ時に覚醒したんだとよヤツがいうには」
「目が覚めたのに、酒を飲んだら覚醒?とはどういう事ですか」
「酒を飲むと一般的には酔いが回り、身体的にも精神的にも動きは緩慢になる。脳も」
「真田くんを含め私もそうだ。だがヤツはアルコールが逆に作用するんだとよ」
「酒がいうなれば麻薬、覚せい剤の用を呈してしまうんだ。合法的に」
「元々突出した頭脳を持ったものが、さらに酒(麻薬的に作用する)を接種したら、どうなると思う?もう私なんかは手に負えない範疇だろうな。」
「なるほど、とすぐには理解できない話ですが、そうなるように努めます。」
「それで今後どういった流れになるんでしょう?」
「これからは待機に入る。森園の連絡待ちだ。レポートなり口頭なりのモノが用意されるだろう。それまでそこに置いてある段ボールにまとめた今回の事件の資料を隅々まで頭に叩き込んで把握しておくんだ。」
「森園のリアクションがありしだい真田君には動いてもらう。」
「では以上だ。」
外部の人間に丸投げでいいのか?税金使って。と思いつつも、頭を切り替え執務室を後にした真田だった。
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