第4話 証拠品見分

端末を切った森園が真田に声を掛けた。

「真田君、実際に証拠品の類いを見たいから移動しようか?」

「あっ、はい。証拠品はとある倉庫に全て移動してあるとの事ですが、

自分はまだそこには行った事がありません。ですが住所は聞いて把握してます。

では車の用意をしてきますが直ぐに出られますか?」 

「では10分後にすぐそこのコンビニの駐車場で待っていてくれ。ではよろしく。」 

森園は500ml入るスキットルボトルに慣れた手付きでアーリータイムズという

バーボンを詰め始めた。銘柄は多種を吞むが森園はバーボン党である。

二つのボトルに手早くバーボンを詰め終えた森園は下着を変えて

髪を後ろ手に括り、ワンサイズ大き目のゆったりとしたサマースーツに着替え、

上着のポケットにボトルを入れ、

煙草(持参したのはアメリカンスピリットターコイズ)と端末を鞄に入れ、

事務所を出た。

コンビニに向かう森園の足取りはふらついてはいない。

真田と合流して車の後部座席に乗り込んだ森園は詰めたばかりの

バーボンを一口やりだした。

車から流れていく景色をぼんやり眺めながら森園は考察していた。

まず考えねばならないのは夫妻の娘がどうやってキャンプ場から移動したかだ。

一般的に考えると、一つ目は自発的に移動、二つ目は連れ去りだが、

両者にしても枝分かれする方法と動機の選択肢が膨大だ。

森園が考える三つ目の可能性もありえるが今の時点ではなんともいえない。

「真田君は煙草吸うの?」

考察を一旦止め、不意に聞いた。

「いいえ、嫌煙ってまででは無いですけど学生時代に試しで吸って

吐いて悪いイメージがあるので吸わないです。気になさらずにどうぞ。」

と言い終わらない内に森園は気分で愛煙している煙草、

ターコイズに火をつけていた。

ターコイズは葉の詰まりが一般的な煙草より密なので、かなりの吸引力を要する。

吸い上げた森園の頬が目に見えるほど伸縮し凹んだ。

森園は真田に対して

吸ってもいいか?という確認の為に聞いたわけではなかったのだが、

そこはまあ置いておこう。

真田は後部座席に乗り込んだ森園をチラチラと観察し、そのことを回想していた。     

まず乗って直ぐ酒を吞み始める。

しかも倉庫に着く前に一つ目のボトルを空にしていた。移動時間の30分の間にだ。

吸うのかと聞いておいて間髪入れず煙草を吸う、しかも立て続けに。

資料は事務所で端末を見たきり車内では一切触らず

外をぼんやり眺めているだけだった。

まあ自分と行動しているときはまだ探偵の活動の為の準備段階?

なのかもしれないが、いかに外部発注とはいえ酒を吞みながらまともな捜査?

仕事が出来るとは考えにくい。

厳密に石橋警視正は、この男に何を依頼しているんだろうか?

おおまかに捜査協力とは聞いているが疑問だらけの森園の行動、

存在が理解できず未だ混乱を隠せない真田なのであった。

車に乗ってから半時間後に倉庫に到着し二人で中に足を踏み入れた。

倉庫に入ってまず目に飛び込んできたのはテントとその周辺にあった簡易テーブルなど、事件現場の遺留品等が距離的な位置関係を含めて既に再現されてあった。

夫妻の持参、所持品は別箇、ブルーシートの上に並べられていた。

倉庫内に元々設置されている机の上には現場写真が大量に置かれていた。

森園はまずテントに潜り込んだ。そして実際に横になってみる。

入ってすぐには気が付かなかったが、身に覚えのある匂いを感じ取っていた。

別に森園はキャンプ好きでもないしテント特有の匂いでもない。

だがそれは彼にとって、ある種懐かしい匂いだった。

まだ二十代半ばだった森園の。

その匂いの出現で娘の移動手段の確立は濃厚になり始めたが、

まだ断定するには至らないし、早急だ。

だが事件が新たな方向へ歩き出し森園の脳細胞を刺激するには十分なものだった。

テントからでた森園は現場写真を手に取り目を通しだす。

キャンプ当日の前後に雨が降っていない為に足跡などは残りにくく夫妻のも含めて

判別、目視出来るものは確認されてはいない。

現場を映した動画も見たが特に目新しく引っ掛かるものはない、動画内には。

椅子に腰かけバーボンを口一杯に流し込み、立て続けにターコイズを三本、

(時間にしておよそ20分)灰にした所で森園の証拠品見分は終了し、

倉庫を後にした。

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