第3話 事件の詳細

森園の端末に入っていた事件の詳細。

S県、西園寺市にある神津山キャンプ場を訪れた田山夫妻とその娘。

娘の名は佑美。この佑美という少女がキャンプ場から姿を消したのだ。

行方不明である。

経緯はこうだ。

夫の田山氏の学生時代からの趣味であるキャンプと山歩きが趣味だったのだが、

結婚後は仕事に忙殺され、更に子育てなども相まって山とは遠ざかっていたが、

子育ても仕事も落ち着きたタイミングで、家族にキャンプの話を持ち掛けると、

妻も娘も乗り気で、娘の夏休みの時期に合わせてキャンプ用品などを買いそろえ

満を持して出かけたキャンプ二日目の事だった。

四人は楽に寝られるテントの中で川の字になって

眠りについたのが夜の12時前位だったと夫は証言している。

妻も同じくそれ位だったろうと。

ある意味特殊だったと思える事柄と言えば三人とも耳栓をしていた事位だろうか? 夫の田山氏は学生時代からキャンプを幾多も行っており、

自然の音が意外にもうるさく感じる場合もあるからと

就寝時には耳栓を普段からも愛用していた。

特にキャンプ場などではそうかもしれない。

妻と娘にも進めた所、反応は上々で最初は自身の鼓動が気になったが、

そのうちに慣れてむしろ心地良さを感じると言っていたらしい。

耳栓の効果も相まってか夫の田山氏が目を覚ましたのが9時過ぎだった。

テントには朝の陽ざしが差し込み既に明るい。

隣を見ると妻がまだ眠っていた。

妻の隣に寝ていた娘の姿は無い。

先に起きて外にいるのだろうと思い入り口のジッパーを開き外に出た。

テントの近くに設営した椅子やテーブルのスペースにも娘はおらず、

トイレにでもいっているのだろうと。

外付けのコンロに火をつけポットに水を入れて乗せてから、

夫の田山氏はトイレに向かった。

トイレは近代的でかなり広く作られており

個室はウォシュレット付きのタイプだった。

トイレの前で娘の名前を読んだ。反応は無い。

二、三分待ってみたが出てくる様子もない。

おかしい。

田山氏は妻の寝ているテントへ足早に戻った。

妻はまだ寝ており体を揺り起こして目を覚まさせた。

いくらキャンプ場のトイレといっても女子トイレに入るのをためらった夫は

娘が見当たらないのでトイレの個室を見て欲しいと頼んだのだ。

寝起きで体の動きがおぼつかない妻を支えながらトイレへと急ぎ、

個室を確認してもらった。

ひょっとしたら個室で倒れている可能性もゼロではないと。

娘は特に持病なども無く至って健康だったが。

妻によると個室に娘はおらず、二人で二手に分かれて、

とりあえず付近を捜してみることにした。

10分後にテントで落ち合う事にした。

夫妻の捜索も空しく娘を見つけられないまま事の重大さを理解し

警察へ連絡したのが9時30分くらいだったとの証言。

先に到着したのが直近の駐在所の警官で、

その十分後に市警の人員が到着して捜索が行われた。

地元の消防団等の協力も得て100人態勢で付近を捜索したが

ついには娘は見つからず、

事件、事故、誘拐、失踪も含めた捜査本部が立てられたが、

1か月が経過したところでも何の手掛かりも見つからず、身代金の要求も無く、

本部は打ち切られる事となった次第である。

それなりにメディアも食いつき報道されたが進展はなかった。

証拠品の類いは別項に記す。

テレビなどでも報じられていたようだが

森園はテレビはここ数年見ていないので把握していなかった事件だった。

何の進展もせず発生から既に一か月半経っていることに業を煮やした

田山氏の父親である政治家の田山修三が警察に圧力をかけ

ケツを叩いたのが二日前だった。

それと同時に独自に有力な情報には懸賞金が出る事となり話題にはなったが、

やがてこの事件は人々の記憶から消えて行った。

きな臭い匂いを感じながら森園は脳細胞が緩やかに活動し始め、

少しだが快楽物質が分泌されていくのを体感していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る