第2話 始まり
ゴミを片付けながら真田は二日前に石橋に呼び出されて聞いた
この男の事を思い出していた。
探偵の名前は森園、下の名前は言わなかった。
年齢は石橋と同じで大学で同期だった事、
依頼するようになった経緯は言わなかったが、
民間人でありながら非公式で事件捜査を依頼し、
複数件の未解決事件を解決に導いているというものだった。
経歴などについては説明は無く、
その男の捜査方法についても詳細に説明する事を意図的に避けている様子だった。
実際に会って行動を共にすれば理解できるだろうと。
そして石橋が男に置いている信頼は感じ取れる話しぶりだったように思う。
何せ石橋自体が警視庁に入庁してから異例のスピードで出世をしたエリートで、
警視庁で、その名を知らぬ者はいないと言われる程のヤリ手だからだ。
そんな石橋が只の民間人を非公式とはいえ使う筈は無い。
ただ人員を補う為に民間人に依頼するとしたら班を離れさせてまで
担当者を付けるというのはどういう事だ?
部屋に入ってから男の事をまじまじとでは無いが観察していても、
およそ捜査を依頼?協力を仰ぐ程の人物かどうかはまだ窺い知れない。
石橋さんから受け取った事件ファイルを見たが
具体的な捜査方法などの記載は無かったし、
部屋に入った途端に立ち込める煙草のヤニの匂い、床に散乱したビール缶、
明らかに現在も酒が残っている様子だ。
肩まで無造作に伸びた髪に無精ひげ、よれよれのTシャツに短パン、
およそまともな生活をしているとは言い難い風体、
何かの情報分析の類いなのだろうか?
未だ混乱している思考を止め、取り敢えずゴミ掃除に専念する事にした。
男はソファーの前のテーブルに置かれたシルバーの煙草ケースに収められた
ジタンカポラルを手に取り、蓋を開ける時にカキーンと気持ち良く鳴る、
ボディにダイヤモンドカッティングが施された
ダンヒルのオイルライターで火をつけ、
ゆっくりと深めに吸い、端末に目を走らせながら、真田に聞いた。
「今井さんはこのまま退官になりそうなの?」
真田の前任者、今井は複数回にわたって男と活動を共にしていた。
「あっ、はい、恐らく復帰は難しいだろうという事らしいので、
現場には戻らないまま勇退するのではないかと。」
真田は男が初めに退官というワードを口にしたので
敢えて今井が入院した事を省いたが、男は恐らく今井がもう来ることはなく、
会う事もないだろうと確信していた。
今井が入院した事は誰からも報告を受けてはおらず、
今井の近況を誰かから聞いて知り得た、のではないし、
本人からも持病などの話は出ていない。まあこの事は追って説明しよう。
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