泥酔探偵
石川タプナード雨郎
第1話 目覚め
九月も終わりが近づく頃のある日、激しい雨が降り注ぐ深夜二時過ぎ、
事務所(といっても只のボロアパート)の固定電話のベルが鳴った。
近くのソファーでたらふく酒を吞んだ男が眠っていた。
二分近くベルが鳴っていたが男は反応を示さなかった。
やがて留守番電話に切り替わりメッセージが再生された。
「石橋だ。メッセージを聴いたら折り返しすぐ連絡をくれ。
それから今回から担当は今井さんではなくなる。
九時前には後任の者を事務所の近くに待機させておくから、
それまでに連絡が来ることを祈ろう。
もし連絡が無い場合は頃合を見て後任を訪ねさせる。よろしく頼む。」
そこでメッセージの再生は終わった。
それから七時間後。
ソファーで眠っていた男は目を覚ました。
体内に残っているアルコールは70パーセント位だろうか?
半身を起こし、これまでの経験上まともに歩けないのは予想できているので
四つん這いで2メートル先の冷蔵庫へ向かう。
冷蔵庫の扉を開け、
普通の人間なら
飲酒の後は喉が渇き水分を補給する為に水を飲むのが一般的だろうが、
男は500mmリットルの缶ビールの蓋を開け一気に飲み干した。
そしてまた四つん這いでソファーに戻って腰をかけ2分程まどろんだ頃だろうか、
入り口のドアがノックされた。
コン、コン、コン、コン。
ノックの回数は規則的な間隔で四回。それは予め決められた回数だった。
男は思い出したかのように「どうぞ」と返事をした。
ボロアパートなのでドア越しでも伝わるのだ。
返事から数秒たって入り口のドアが開いた。
初めて見る顔だったが、男は知らない人物が入ってきても驚きはせず、
入ってきた男を焦点が合ったり合わなかったりの、ぼやけた視界で観察し始めた。
身長170後半、年齢20代後半、眼鏡は掛けておらず、
グレーの少しくたびれたスーツに肩から黒い鞄を斜め掛けにしている。
ドアの前に立ちこちらを見ながら、
「失礼します!石橋さんの指示で来ました、真田といいます。
前任者が現場を離れましたので私が後任となりました。よろしくお願いします。」
男は、どうもよろしく、と言って頭を下げた。
石橋さんからのメッセージは聞きましたか?
「いや、聴いてはいないが君が来たことで状況は理解している。
端末は預かっている?」
「はい、石橋さんから渡すようにと、どうぞ。」
男は左手で端末を受け取ると、
「すまないが散らかってるゴミを整理してくれないか。
ゴミ袋は冷蔵庫の上にある。大雑把で構わないから。
その間に端末に目を通すから、よろしく頼む。」
石橋から臨機応変に対応してくれとは言われたが、
まさかゴミ掃除を頼まれるとは思いもしなかった。
少し面喰いながらも、
男からは押しつけがましい雰囲気や高圧的な態度も感じられなかったので、
石橋の指示もあることだし、「わかりました」と頷き、
床に散乱しているビールの缶や弁当などのゴミを袋に詰め始めた。
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