論理的な恋愛攻略法

王加非

第1話

  この世界を支配しているものは何であるか、皆さんはご存じでしょうか。それはアメリカ合衆国でも、勿論あなたのお母さんでもありません。

 それは「論理」です。私たちは論理を使わなければ、言葉を話したり、聞いたりできませんし、考えたりすることすらできません。

 そう、論理がこの世界、この宇宙を制しているのです。

 だから―そうこの「だから」こそ論理の一番重要なものです―論理を使えば、恋愛を攻略するなど、いともたやすいことなのです。

 その証拠として役に立つかは定かではありませんが、私は恋愛において一度として失敗したことがありません。このことは、これまで一度も恋愛をしたことがないとも言い換えられますが、それは些細な違いでしょう。


 しかし、論理とは意外と使いこなすのが難しいのです。その例については論理の本を参照していただきたい。しかし、私はその限りではありません。なぜなら、私は国語が小学生以来一番の得意科目であったからです。論理に関してはアリストテレスの次くらいにできるといっても過言ではないでしょう。


 そろそろ本題に入りましょう。論理的恋愛攻略法をあなたたちに教えるのが私の目的ですが、私が長々とそれについて講釈するのは説得力に欠けますし、皆さんも退屈でしょう。なので、ここは私の実践によってそれを示しましょう。


 運の良いことに私はつい先日、同じ大学の同期の吉田瑞樹さんに恋をしました。

 いや、「恋をした」というのはいささか正確さに欠ける表現であるように思われるので、訂正しましょう。

 私は、件の吉田さんが私と交際をしたいと申し出たならば、それを受け入れるにやぶさかではありません。

 参考までに彼女について私が知っている範囲で説明しましょう。

 吉田さんは私と同じ大学に通う女性であり、私と同じ「哲学Ⅰ」の講義を取っています。


・・・これくらいでしょうか。皆さんが言いたいことも分かります。いくらなんでも情報が少なすぎると。しかし、重要なことを皆さんにお教えしましょう。推論は確定的な情報のみから行われるべきである、ということです。

 皆さんは食い下がってこう聞くかもしれません。


「せめて吉田さんに彼氏がいるのかどうか知らないのですか」


 しかし、それを私はどう確認する術があるのかと、私は皆さんに逆に問いたい。

  たとえ私が吉田さんに直接彼氏がいるかどうか問い、それに対し彼女が回答したところでそれが恥じらいからの嘘でないとは言い切れないのです。

  デカルトは真実を探求するために、この世のすべてのものを疑いました。

 私たちはこのデカルトの方法的懐疑のように全てを疑わなければなりません。

 そもそも、一度も話したことがない相手に向かって交際相手の存在を問うなど言語道断です。まずは常識を身に付けましょう。


 それに、愛しの女性と接する前にはその女性についてある程度知っている必要があります。

 皆さんもお気づきでしょうが、ここに矛盾が生じます。吉田さんと話すためには吉田さんに関する情報が必要になる、しかし、吉田さんに関する情報は吉田さんと話さなければ得ることができない。

 これを探究のアポリアといいます。アポリアとはギリシャ語で行き詰まりを意味します。


  この難問を潜り抜けるには二つの解決方法があります。

 一つには、吉田さんに関する情報をアプリオリに知っているということです。つまり、吉田さんと話をする以前に彼女について知っているということです。より具体的に言えば、吉田さんの友人などから彼女についての情報を聞き出すということです。しかしながら、友人の多い私でもそんな事態は起こりえなかったことから、この方法は皆さんには不可能に等しいでしょう。よって、二つ目の方法を用います。


 二つ目の方法とは「推論」を用いることです。すなわち、彼女をつぶさに観察することによって彼女に関する情報を推測するということです。

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