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その後、晩餐会は何事もなく無事に終わりを迎えた。
フェリモースの魔女の話が何か考えているうちに、デザートが終わってしまっていた。
「またぜひお会いしましょう」
同席していた夫人が、旦那と共に席を後にしてから十数分。
私はアルベルトと共に席で迎えが来るのを待っていた。
「マーレ。すまなかった」
突然アルベルトが謝罪の言葉を述べたので、一瞬私は、晩餐会の振る舞いに大きなミスがあったのかと心配になってしまった。
「あの黄金石は、君の母の形見だったというのに……」
どうやら、黄金石のことを指しているらしかった。
いくら調べるためとはいえ、どうやらレジルド二世の手に渡してしまったことをアルベルトは詫びているらしい。
「なんてことしてくれたんですか!ってラディーレなら怒るでしょうが、私はかまいません。あれを持っていても身動きが取れなかった頃に比べたら、今の生活は楽しいですから」
海の近くにある崖の上の教会の暮らしが嫌いな訳ではなかった。
晴れている日は水面がキラキラと輝き、海猫の鳴き声と共に波が崖にぶつかる音がする。
あの刹那を懐かしく思うことも正直ある。
だが、リンデ夫人に勉強を教えてもらったり、中には意地悪い態度を向けてくるメイドもいるが、同年代の女性と話をしたりできる経験は、教会の中の孤独な暮らしの中では得ることができないものだ。
それに、あれほどまでに大きな黄金石をもしメイドが盗んでしまってどこかへ売られるくらいなら、厳重な警備をしている王宮で管理した方が安全だとアルベルトも判断したのだろう。
「マーレ……君は」
「ですが、一言欲しかったというのは、あります。以降はおっしゃってくださいね」
「わかった。約束しよう」
アルベルトがホっとしたように微笑んだので、私は思わず彼の手に自分の手を重ねてしまった。
お互いに目が合って、私が手を引こうとすると、今度はアルベルトの手が私の手を捕まえた。
自分で手を重ねてしまった手前、引き抜くことも出来ないでいると、アルベルトが「マーレ」と私の名前を低い声で呼んだ。
「あの……私」
私が口を開きかけた時、なかなか席を立たないアルベルトと私を見かねて、フォルティス将軍とダリアが貴族の席までやってきた。
アルベルトは「この後、魔女と対談をする」と彼らに伝えると、重なっていた手は離れていった。
もし、フォルティス将軍と、ダリアが来なかったら、私は何を言ってしまうところだったのだろう。
「フェリモースの魔女が自ら接触してくるなど、相当なことがないとあり得ませんよ!」
ダリアが興奮したように言ったので、フォルティス将軍が「ダリア。声を小さくしろ」と注意をした。
会場には、すでにフェリモースの魔女ギルダの姿は見受けられなかった。
魔女というくらいだから、人をすり抜けて消え去ることなど簡単なことなのだろうか。
会場に人気がすっかりなくなるまで、アルベルト達と共に、私は迎えが来るのを待っていた。
「お待たせしました」
すっかり人がはけた後、先ほど迎えに来たディークが私たちの前に現れて「書斎の間へご案内いたします」と静かな声で言い放った。
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