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レックス家から馬車を走らせてから時間がしばらく経った時、ゴシック調の彫刻が施されている大きな門に差し掛かった。
門を越えると明らかに景色が変わって、門の外よりも豪華な家が並んでいる。
リンデ夫人から、城下町は多くの貴族や金持ちの商人が住んでいるという話は聞いていたが、これほど門の外と風景が変わるとは思っていなかった。
アルベルトの所有している屋敷も立派だが、その大きさの家がたくさん並ぶと圧巻である。
「す、すごい……!」
私が思わず感嘆の声をあげると「ようこそ、王都ロレーザへ」とアルベルトが微笑んだ。
窓の外を眺めると、街灯ひとつひとつに炎が灯っており、街全体が光輝いて見えた。
街灯が作り出す光の道は、王宮へと繋がっている。
「そんなに感動してくれるなら、連れてきた甲斐があったようだね。マーレ。最後の打ち合わせをしてもいいかな?」
感動している私に冷水をかけるように、アルベルトは真剣な声色を出した。
私が、窓の外から視線をアルベルトに移すと、彼の瞳は少しも笑っていなかった。
「母から聞いたと思うけれど、君は母の母、つまりは私の祖母の遠縁の親戚で、最近この地へやってきて、私と恋に落ちた。この国では、血族結婚も場合によっては許可が降りることもあるから、君との結婚は問題ないはずだ。いいね?」
リンデ夫人やアルベルトが身分を気にしなくても、私の地位を気にする人間は大勢いるそうだ。
だからといって正直にナタリア王国出身だと言う訳にもいかない。
「はい、この件については、リンデ夫人より何度もお話をお伺いさせていただきました」
「よろしい。次に、今夜の晩餐会では、君へひどく冷たく当たる人間もいるということを覚えておいてほしい」
「冷たく当たる?」
「そう。母の授業を受けているから、レックス家とアルジーネ家のことは把握していると思うけれど、残念ながら、レックス家に外の血を混ぜたがらない人間もいるということだ。この結婚が偽装だと知っているのは、私と君とラディーレだけだからね」
レックス家とアルジーネ家は、イージェス王国を代表する由緒ある家柄。それと同時に家柄を守るため血族結婚を繰り返し、呪いの祝福を受けた子供が数多くいるのです。
アルベルトの背後で、光の街灯がいくつも通り過ぎていくのを眺めながら、私はリンデ夫人の言葉を思い出した。
「承知しました。覚悟しておきます」
「君は、ラディーレに色々教えてもらったりはしているだろうが、対人……つまりは、敵意を持った人間との対話にあまり慣れていないと思う。何かあったら、私が対処するからあまり私の側から離れないようにしていれば大丈夫だ。先ほども屋敷で言ったけれど君一人で参加するわけじゃない。隣にいるパートナーを存分に頼ってくれて構わないよ」
「ありがとうございます」
私が頭を下げると、アルベルトの手が私の顎に優しく触れた。
「夫婦なんだから、そうやってペコペコしなくていい。真っ直ぐ視線を合わせてくれないと、夫婦に見えないだろう」
顔をあげると、すぐ近くにアルベルトの顔があった。
切れ長の瞳が、じっと私のことを見つめている。
アルベルトの親指が、私の唇に触れた時だった。
触れられた箇所が熱くて、私は慌てて狭い馬車の中で後退ってしまった。
「あの……」
こういう時、私はどういった反応をすればいいのか分からなくて、言葉を探してみたが、何も思いつかなかった。
「キスされると思った?」
「き、キス!?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるアルベルトに、私はどぎまぎしながら「そ、そんなこと思ってません!」と答えたが、顔が熱くなるのを感じたので、窓の外に顔を向けた。
嫌じゃなかった。
なんて言えるはずがない。絶対に。
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