第14話 激突、水の幹部


 町中は閑散としていた。静まり返った町の中で響くのは、私たちの心臓の鼓動だけで……慎重に、慎重に歩を進めていく。

 そしてついに、町の中央にある小さな塔へとたどり着いた。

「こ、ここに……魔王軍幹部が……」

「琴葉、落ち着いて!私たちならやれるよー!」

 こういう時の空音は、なんだかんだ頼りになる。悔しいが、おかげでもう心が落ち着いた。


「空音さん、流石です。こんな時まで……」

 オビエが感心したように言う。

「ふふ、ま、私にかかれば魔王軍幹部なんて……」

「それを言うのは幹部倒してからね?」

「か、幹部……たおす……うう……」

「オビエ、大丈夫。あの作戦が上手くいけば、それでもう終わりなんだから」

「うんうん。さあ、みんなおしゃべりはこのくらいにして、そろそろ行くよ!」

「うん!」

「……はい!」

 塔の中には、ボロボロな螺旋階段が2つあるだけで、他には何も無かった。それを、私たちはゆっくりと登っていく。


 ———そして、見つけた。

  あれが魔王軍幹部。ひと目見ただけでそれと分かる彼は……全身から「恐怖」を放っていた。

 ……怖い。体中の細胞が「逃げろ」と言っている。それでも。 私は覚悟を決めた。


 彼は、塔の最上階にいた。私たちが階段を上る途中も、上り終わってもまだ攻撃を仕掛けて来なかった。

「また……か。もう飽き飽きしてるんだよ、お前達のような醜い人間の相手をするのは。今のうちに帰ってくれないか?そうすれば死なずに済むぞ?」

「はは……飽き飽き、ね。あんたのせいで私たち冒険者はめっちゃ困ってんの。引き下がる訳にはいかないかな」

「困っている……?はっ、お前達がその言葉を発するのか。いいだろう、そんなに早死にしたいなら手伝ってやる。……来い。」

「とおりゃー!!」

「!?」

 話が終わると同時に空音が蹴りを入れる。

そして、彼の体は液体となり、広間に飛び散った。

「ちぇ、もう液状化してんのね……。不意打ちは失敗か」

「何っだ……!?今のは……!?全く見えなかった……!」

 肉体的なダメージは無かったが、精神的には少し効いているのかもしれない。


「なるほど……ただの愚かな自殺志願者では無いようだな。油断は禁物。お前達から教わった言葉の一つだった……忘れていたよ」

 ……やば、本気にさせちゃった。物理攻撃がそもそも効かないから、空音の攻撃力が低いことに気が付かないのか。

 ……でも、作戦は続行だ。

「今だ!食らえ!水相手には雷の魔法!」

 私はあえて大げさに宣言する。


「!?お前、魔術師か!?王都の魔術師は今遠征に行っているはず……」

「残念ながら、私は最近この世界に来たんだよね」

「……!?そんな馬鹿な、何故今更……」

と、アクアスが動揺していると。

「しゅばばば~!!」

 すかさず空音が超高速で連続攻撃を仕掛ける。それよって、彼の体が飛び散り……。

「ちっ!くそっ、鬱陶しい!」

 私は詠唱を完了させた。


「……勝負あったね。魔王軍幹部、アクアスさん」

「ッ!?しまっ……」

「ゴロ!!」

「…………は?」


      ピシャーーン!!!


 私の雷魔法が炸裂し、そこには……。

「………………」


 ポカーンとしたまま動こうともしない無傷のアクアスが、棒立ちのままでいた。

……あ、あれえ?

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