第13話 「すいません、彼氏が来たので。」
「平塚!…すいません、彼氏が来たので。」
「ごめんな葵、遅れた……えっと、この人は」
「さあ?知らない。さ、早く行こう」
待ち合わせに使っていた駅に着いたところ、知らない男が知り合いの顔の良い女に言い負かされ涙を流しているところを目撃した平塚。
早歩きの葵の横に並び腕を組みながら少し歩いたところで会話は始まった。
「で、誰だったんだよ」
「なんか、たぶん勧誘」
「勧誘?」
「あぁ」
アイドルなんかに興味は無いしね。と言う葵は不機嫌そうな顔をしている。
そして不満げな顔ですら良い顔であるのが罪である。
「アイドルの誘いを宗教勧誘みたいに言うなよ」
「偶像という点からは一緒だね」
「……その顔でアイドルに興味が無いっていうのは、ある種宝の持ち腐れなのかもな」
「それで結構だ。私は別にアイドルになりたいわけじゃない」
「でも今回みたいな話の誘いがこれまで無かったわけじゃないんだろう?」
「まあ、何度か」
「じゃあなんで今日はそんなにキレてたんだよ」
「…自分で考えて」
不満ポイントが追加された葵は組む腕を更にきつく締める。
「そういえば我々はいつまで腕を組んでいるんでしょうか」
「嫌なのかい?私の彼氏君?」
「……はぁ。大変うれしく思います、彼女様」
「にへへ……じゃなくて、それでいいんだ」
数分の距離を、周りに彼氏であると匂わせながら本来の二倍の時間を使って歩く。
到着先は、デパート。
(なんだ…なんだあのカップル)
店員は、困惑していた
「どう?この服」
「おー、いいんじゃないか」
「これは?」
「うん。似合ってる」
「じゃあこれは?」
「女神かと思った」
(なんだその返し!?そんな反応じゃ彼女が不機嫌に…)
服に対する知識が圧倒的に足りていない彼氏に対して
「えへへ」
(いやもうなんでも嬉しいんかい)
何を言われてもイケメン顔が融解する彼女に、店員はレジで砂糖を吐きそうになっていた。
(これまでファッションに全く興味を示さない彼氏は幾度となく見てきた。だがこいつらは、なんだ…?)
「あのー、お会計お願いしていいですか?」
「っは!すいません」
(いかんいかん。今は仕事に集中しなくては……にしてもイケメンな彼女さんだなあ)
「__のお釣りになります。ありがとうございましたー」
「ありがとうございまーす」
完璧な微笑みを作り感謝を述べ去っていく彼女さん
すぐに彼氏と腕を組み、ラブオーラを放ち始める
(こういう人たちもいるって事なのかなあ……ん?)
「葵さん?まだカップルごっこやる感じですか」
「嫌ならもっと抵抗するべきだと思うのだが…どう思う私の彼氏君?」
「嫌だったらとっくにやめてるよね俺の彼女さん……なんか照れるな」
「……ね。ま、まあ今日くらいは良いじゃん」
お互いに照れている二人は
(いや付き合ってなくてあの嬉しそうな表情する?)
一人の店員に大きな疑問を残し、デパートを後にしていった。
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