第11話 「眠い」

「んぅ。眠い。」


「寝な?」


「平塚ー。膝枕して。」


 お昼の屋上。天候は快晴。

 お腹がいっぱいになると眠くなるのは、人の定め。抗えない睡魔と暖かい日光で、瞼がだんだん重くなる。


「だからって膝枕はおかしいけどね?」


「おかしくないよ。今日のお弁当だって」


「今日のお弁当当番は、この平塚でございます。」


「むぅ」


 葵から言葉が出てこない。


 眠気はもちろん、今日はお弁当マウントがとれていないという事が影響している。


 ただ、既に平塚の肩には、葵の頭が預けられている。


 しかし、お互いに気にしている様子はない。


「ねぇ。眠いよぉ。」


「だから寝なって。」


「でも枕がないよ。」


「俺の上着を貸してやろう。」


「……いや。やっぱり膝枕がいい。」


 幼馴染と言えどもやはり異性。


 お互いに意識はしているものの、その後の行動は全く違う。


「ねえ、なんでそんなに膝枕が嫌なんだい?」


「どう考えても高校生がやる事じゃねーからだろ」


「なんでさ。君と私の仲だろ?」


「親しき中にも礼儀ありという言葉があってだな」


「じゃんけん。」


「へ?」


「じゃーんけーん」




 ぽい












「すぅ……」


「もう、どうにでもなれ」


 小さくかさかさと聞こえてくる葉の音に混じって、寝息が聞こえてくる。


「普段はイケメンなんだが、寝てる時だけは可愛いんだな、この幼馴染は。」


 葵の頭を優しく撫でる平塚。


「…」


『ずっと一緒にいよう』


「……今更ながら重いな。うん。」


 優しい時間は、まだゆっくりと流れていった。












 ……昼休み終了五分前を告げる鐘が鳴ったころ、葵を揺する平塚を眺める者がいた。


「『ずっと一緒に…』ね。……そろそろ動くべきかな。」

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