第10話 「奇遇だね。」

「やあ平塚。奇遇だね。」


「お前がコンビニで立ち読みとは珍しいな。」


「たまにくらい良いだろう?そんな事より、せっかくだし一緒に帰ろうか。」


 今日はちょっと遅くなるから先に帰ってくれ。

 と言われ、帰り道にあるコンビニでたまたま漫画を立ち読みしていた葵だが、偶然外を見ていると歩いている平塚を見つけ、スマホで連絡を入れた後からこの会話は始まった。


「何読んでたんだ?」


「え?」


「いや、立ち読みしてたんだから」


「あ、ああそうだね。その通りだ。」


 アレだ、週に一回のごついアレだよ。と言う葵の目は、平塚の視線と会うことがない。


「え、でもそれは新刊明日じゃなかったか?」


「別に新刊を読んでいたとは限らないだろう」


「まあ確かに……?」


「第一、立ち読みなんて何となく手に取ったのになるだろう?」


「まあ、立ち読みを最近はしなくなったがな」


 いつもより暗い帰り道を歩く二人。


 家の距離も近いので、会話はまだまだ続く。


「そういえば、今日はなんで遅れたんだい?」


「委員会のやつだ。そろそろ地域清掃があるらしくてな」


「ふーん。まあ、私と平塚はもちろん一緒だろうな」


「そこはわからねえよ。全クラス混ぜてくじ引きだ」


「えー。なんでそうしたのさ」


「目標は地域貢献と共に学校内生徒の交流。違う学年で仲が良いっていうのを学校はアピールしたいんだろうぜ」


「……まあしょうがないか」


「なんか、今日は安定してるな」


「え?ああ、いつもは平塚が誰かに取られるんじゃないかって思ってしまうんだがな。今回は大丈夫だから」


「え?い、いや、今回はくじ引きだからランダムで」


「心配しなくていいよ平塚。こういう時は私たちは一緒になる、そういう運命なんだろう。私がいれば平塚がいるのは必然なんだ。今日、一緒に帰る事が出来ていることだってきっとそうだ。ランダム、運、確率。これらは私たちの前ではあってないようなものなんだよ。」


「……そう言いながら手を握ってるのは何ですか葵さん」


「邪魔者に取られないようにしているだけさ」


「葵」


「なんだい、私の平塚」


「またセリフ間違ってるぞ」


「えぇ!?また!?」


「『あってないようなもの』じゃなくて『関係のない存在』だ。……あの漫画ハマったな?」


「認める、あれは面白い……それに」


 平塚に悟られずに、本音を伝えることが出来る。


「……なんで立ち止まってんだ、さっさと行くぞ」


「ごめんごめん。今行くよ」


 私の運命の人

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