第9話 「ヤンデレって知ってるかい?」

「平塚。ヤンデレって知ってるかい?」


「いきなり何言ってんすか葵さん。」


「いや、ヤンデレを知っているか聞いただけなんだが。」


 今日の天気は快晴。雲一つない青空は、風景をより一層美しく見せる。そんな屋上でのお昼時、葵の作ってきたお弁当を食べていた所にとんでもないワードが投げ入れられた。


「誰の入れ知恵だ。」


「おい、私以外の話を始めようとするなよ。」


「……それはなんか違うんじゃないか。」


 え、そうなのかい。と言って漫画を取り出す葵。


 ペラペラとページをめくると、すぐに読んでいた漫画を閉じる。


 そして、グイっと平塚に顔を近づけた。


「……他の女のにおいがする。」


「なんでそんなことがわかるんだ。」


「これは……私の知らない女のにおいだな。」


「……は?お前何言って」


「あの後輩ちゃんは、私とあまり接点が無いからなあ。」


 淡々と言い続ける葵。


 その声には、いつのも中性的な声に混じって恐怖を感じる。


「お、おい。ヤンデレごっこはそろそろやめないか。」


「あの子、まだ君にまとわりついてるんだろ?今日の屋上に来るまでに時間がかかったからな。」


「いや、葵。話を聞いてくれ」


「え?ほんとにあの子と話してたのかい?」


「まあそれはそうだが。それでな」


「な、なんで!あの子は平塚と付き合うのをあきらめたんだろう!?なのにどうして!」


「……お前、今日おかしくないか?」


「おかしいのは君だ!なんで平塚はあの子と会うことにしたんだ!なあ、おかしいだろう!私の平塚なのに!」


「……そこのセリフ間違ってるぞ。」


「えぇ!?私がそれくらいの事を間違うはずが……あ。」


「ほらな、やっぱりこうだよ。」


「あーあ。ばれちゃったか……で、なんであの後輩ちゃんと会っていたんだい?」


「あ、それは聞くんだな。まぁ、これからも友達として……って事だったよ。」


「ふーん。で?」


「で?ってなんだよ。それだけだ。」


「……ま、今のところは大丈夫かな。ねえ、平塚。私たちはずっと一緒だよな?」


「当たり前だろ、いきなりなんだ。」


「じゃあいいんだ。はい、あーん。」


「今日もやるのか……どうせ卵焼きだろ。」


 昼休みが終わるまであと20分。




「都宮葵……あいつ、先輩から『あーん』を……」


 不穏な影は、屋上入り口から二人を眺めていた。

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