第8話 「遅いなぁ。」

「平塚。遅いなぁ。」


「よう。待たせたな。」


「やっと来たね、じゃあ行こうか。」


 平日。授業も終わり、これから幼馴染同士で帰ることになっていたのだが、葵は平塚を待って玄関で三十分ほど時間をつぶしていた。


「平塚が遅れるなんて珍しいね。何かあったのかい?」


「まあな。」


「先生にでも呼ばれてたのかい。」


「いや、後輩に呼ばれた。」


「ふーん。」


 何事もなかったかのように歩き出す二人。


 しかしいつもよりも静かだ。


 どちらから話しかけるわけでも、かと言って険悪でもない。


 お互いに考え事をしている。


 先に口を開いたのは葵の方だ。


「後輩って、女の子かい?」


「え?まあそうだが。」


「何で呼ばれたか聞いてもいいかな?」


「あー、うん。実は告白されたんだよ。」


「……ああなるほど。」


「お前にとっちゃ普通か。」


「ま、まあね。」


 下手すれば俳優よりもいい顔をしている葵には、確かに告白自体はいつもの事だ……だが、平塚がされた側となれば話は変わってくる。


「結構驚いたけどな。初めて見るやつだったし。」


「それでその……どう回答したのかな。」


「まあ断った。俺はそいつの事何も知らないし、それに俺なんかよりもいい奴が現れるだろうしな。」


「ふーん。良かった。」


「何が良かったんだよ。」


「!?あー、あれだよ。君みたいなやつを好きになって大変な目に合う子が増えなくてよかったっていうあれさ。」


「ちょっとひどくないか?」


「!?!?違うそうじゃなくって……その。わ、私の方が……その。」


「いやそこで止まるなよ。気になるだろうが。」


「ま、まあまあ。さっさと帰ろうか。」


「……はぁ。ほんとにチャンスを逃したのかもな。」


「むっ。……腕でも組もうか平塚。」


「い、いきなりどうした葵さん?」


「もっと私の事を良く知るべきだと思ってね。」


「いろいろ当たっていますよ葵さん?」


「ふへっ……あ、当ててんのよっ。」


「無理しないでね葵さん。」


「平気だもん!……あと私の方が平塚のこと好きだし。」


 腕組は結局帰るまで続いた。

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