第6話 「……もう寝たかい?」

「平塚……もう寝たかい?」


「……一緒に寝たいんじゃなかったのか。」


「そう意地悪言わないでくれよ。」


 時刻は深夜。どちらもベットの上で背中を合わせながら眠れない夜を過ごしていたところ、聞こえる心臓の音に耐えきれなくなった葵は囁くような声で平塚に話しかけた。もちろん返す平塚の声も蚊の鳴くような声だ。


「で、用件はなんだ。」


「ああ、えっと。」


「特に考えてないんだな。」


「……うん。」


 その、ごめんね。と言って、いつもとは少し違う反応を見せる葵。


 窓から入ってくる月明りは、いつも以上に明るく感じる。


 平塚の方も覇気のない突っ込みを放つ。


「じゃあその。」


「なんだ。」


「……子供の頃の事を覚えているかい。」


「…」


「君がまだ、私の事を男だと思っていた時の話だ。」


「あの時の事は何度か謝っただろ。」


「ふふっ。別に怒ってはいないと何度も言っただろうに。」


 公園。夕暮れ。泣いていた葵。


 今ではぼんやりとしか思い出せないが、ただ一つだけ忘れられない言葉があった。


「ずっと一緒にいようね、だったっけ。」


「ああ、そんな事もあったな。」


「…」


「…」


「私は、大人になりたくないんだ。」


「……なんでだ。」


「忘れたくないんだ。『ずっと一緒にいようね。』もうどっちが言ったのかも、私たちは覚えてない。いつかその言葉すらも忘れてしまうんじゃないかって。」


 そう思うんだ。


「…」


「すまない。こんな事言うつもりじゃなかったんだがな。」


「葵。」


「なんだい、平塚。」


「大人になっても、ずっと一緒にいよう。」


「……ひゃ!?」


「どっちから言い出したとか、いつか忘れるとかじゃない。また約束をし直そう。」


「…平塚!」


「!!!???」


「平塚平塚平塚!」


「ちょいちょいちょい!なんでいきなり抱き着いてきた!」


「一緒にいよう!ずっと一緒に!」


「一緒にいるのと一体化するのでは話が変わってくるが!?」


「ぎゅうぅぅぅぅぅ。」


「……はぁ、なんで結局こうなるんだろうな。」


「平塚もぎゅってして。」


「もうなんでもいいです。はい、ぎゅー。」


「……すぅ。」


「もう寝た!?……まったく、お前は可愛い奴だよ。」

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