第3話 「貸してくれない?」

「財布を忘れてきてしまった。」


「都宮さん、良かったら何か買いましょうか!」


「ありがとう。でも気持ちだけで嬉しいよ。」


 放課後の自販機前。何か買ってから幼馴染のところに向かおうとしていた所、財布を忘れていることに気が付いた都宮葵に、ファンの女の子一人が声をかけてきてくれた。


「なんてことがあってね。」


「何で財布忘れてんだよ。」


「君ほど忘れ物は酷くないよ。」


「うるせ。」


 帰り道を並んで歩きながら、起こったことを報告する二人。


 呆れ気味の平塚だが、文句を言えない状況になっていた。


 そんなところに、道の幅に置かれた自動販売機がブーンと音を立てている。


「全く……俺も自販機でなんか買うわ。」


「私、オレンジのジュースがいいな。」


「なんで俺には容赦ねえんだよ。」


「手加減するほどの仲でもないだろう?」


「親しき中にも礼儀ありって知らねえか?」


 とは言いつつ、財布から三百円を取り出す平塚。


 ホントなんで財布忘れんだよ……とぼやきながらも、買うこと自体にはあまり抵抗がなさそうだ。


「オレンジね……オレンジっと。」


 ガコン


 取れたての缶を葵に向かって投げる平塚。


「やっぱり平塚は優しいねぇ。」


「明日の弁当は豪華になるんだろうな。」


「タコさんウィンナーはかたいね。」


「奢った甲斐があるってもんよ。」


「……コーヒーを買ったのかい?」


「最近は専らこればっかりだな。」


「おいしいの?」


「いや別に。」


「え、じゃあなんで?」


「大人になってる気がするから。」


「ふーん……じゃあ私も飲もっかな。」


「無理だ。今のお前には金がねえ。」


「あ、そっか。……じゃあそれ頂戴。」


「馬鹿だろお前。そのオレンジジュースどうするんだよ。」


「じゃあ交換で、ハイ!交換!」


「何でムキになってんだ……」


「いいでしょ!私たち幼馴染だよ!」


「……もうお互い一口付けてんじゃねーかよ。」


 ごくごく。


 ……ふはぁ。


「コーヒー、どうだった。」


「い、いやその、うん。大人の味だったね……それより、久々のオレンジジュースはどうだったかな?私との間接キス付きだけど。」


「子供に戻っちまったよ。」


「じゃあ先に大人の階段一歩だけ登っておくよ。」


「俺の方が先に飲んでたけどな。」


「でも量的には私の方が……まぁ味はわかんなかったけど。」


 大人には、もう少しならなくていいかな。


「おい、さっさと行くぞ。」


「はーい。」

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