Day 1.聡の心情~真実の愛ってなんだっけ~
(何だか妙なことになったな……。)
部屋中に飾られた夥しいスピリチュアルグッズをどれとも定めず見回しながら、独りごちる。
正面には恰幅のいい中年の女性が、なんだか
カオルをカオリ、と呼ぶことが決まったあの後、すぐに遥が件の知り合いと連絡を取った。
本来は数カ月待ちレベルの忙しい人だそうだが、遥とは随分懇意にしているのか、事情を話したら特別にその日のうちに時間を取ってくれたらしい。
「破ァーーーッ!」
と、そうこうしてる間に呪文が終わったようだ。
真剣に女性を見つめるカオリと遥に釣られて俺も神妙な面持ちになる。
……。
しばしの沈黙。
その重さに耐えかねるように俺が口を開こうとしたその時、
「出ました。」
霊能者の女性が話し出した。
「カオリさん……いえ、薫さんとお呼びすべきかしら。貴方、相当女性に恨まれてるね。沢山の女性の生霊が憑いてる。」
初対面の前情報もない他人に言い当てられ、真っ青になるカオリ。
思い当たる節なら腐るほどあるんだろう。
正直カオルの女癖に関しては同じ男の俺から見ても酷かったからな…。
急激に真実味を帯びる女性の言葉。
さらに女性は続ける。
「その中でも一際強い生霊が核になって、今貴方の性別を変えているようだわ。」
「男に戻るには……どうしたら?」
カオリが恐る恐る聞くと、
「そうねえ……一言で言うなら、『真実の愛』を見つける事。大切な女性と互いに愛し合う気持ちが芽生えたら、元に戻るかもしれない。」
「ほほう、百合かな?」
つい口が滑った俺に遥からチョップが飛んできた。
カオリはと言えば、この世の終わりみたいな顔をして佇んでいる。
そして、
「行動するなら急いだ方が良さそうよ。期限はせいぜい1週間ってとこね。」
?!
「もし過ぎたら……??」
さらに恐る恐る聞く遥。
カオリはもはや絶望の様相だ。
「もし過ぎたら……一生女性として生きることになるでしょうね。」
ああああ、やっぱりかああ。
真実の愛とか、今までのカオルに最も似つかわしくない物だろうからなあ…。まして今カオルは
「そんなに落ち込むなよ、カオリ。最悪元に戻らなかったら俺が貰ってやるから。」
カオリを元気づけるつもりで放った渾身のジョークは盛大にスベったらしく、カオリと遥の双方からグーパンチが飛んできた。
「聡、真面目にやんなさい。」
「はい、すんません。」
オチがついたところで鑑定は終わり、俺達は丁寧にお礼を伝えて帰った。
カオリの自宅で早速作戦会議である!!
「僕……一生このままなのかな……。」
絶望に打ちひしがれるカオリを必死で励ます俺と遥。
「そうならないための作戦会議だろ? 元気出せよ!」
「そうよ! とりあえず……原因も元に戻る方法も分かってよかったじゃない。それだけでも1歩前進よ。」
前向きな俺達と、どうしても前向きになれないカオリ。
「元に戻る方法が分かったって言ってもほぼ絶望的なんだが。僕に『真実の愛』なんてものが見つけられると思うか?!」
半ば悲鳴に近い叫びに、俺達は2人とも唸るしかない。とはいえ唸っていても解決する訳じゃない。前向きかつ建設的な方法を探さなければ。
「『真実の愛』ねえ……。そもそもそんなの1週間でどうにかなるのかな……?」
遥まで弱気になっている。これはまずい。
「ばか、何とかするんだよ!! そうだ遥、お前の友達カオリに紹介するのはどうだ?」
我ながら名案である。しかし……。
「えーやだよ! 大事な友達カオルの毒牙にかけたくないもん。」
えらい言われようであるが、日頃の行いが行いである。カオリどんまい。
すると、
「頼む、遥、お前だけが頼りなんだ。」
カオリが口を開いた。
「え、ちょっと突然何?」
何故か少しどぎまぎした様子の遥にカオリが続ける。
「お前の友達紹介してくれ!! 『真実の愛』を見つけるためだ、決して酷いことはしないと誓う!!」
……。
遥はしばし考える素振りを見せた後。
「しょーがないわねー。何人か信用出来る子声掛けてみる。けど、マジで酷いことしたらタダじゃ置かないわよ?!」
渋々承知した。
「ありがとう! 恩に着るよ!!」
嬉しそうなカオリを見ながらふと思った。
よくよく考えたら今日俺なんもしてねーな。
まあ、さっきまで絶望しきっていたカオリに笑顔が戻ったからいいか。
「とりあえず、今日は解散、かね?」
俺の一言に、2人とも頷く。
「よし、じゃあ明日よろしく!!」
「明日?! マジで言ってんの?! 分かったわよ何とか聞いてみる。期待はしないでね!」
「んじゃまたな! 朗報待ってるぜ!!」
こうして本日の作戦会議は終了した。
しかし、カオリの無茶振りに応じる遥、スゲーな!
そんなことを思いながら俺は家路に着いた。
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