Day 1.カオリの事情~寝耳に水の大変身?!~
ピピピ、ピピピ!!
未だ微睡みの中にいる僕はガサゴソと音の発生源を探すと、
«07:30 am»
その箱が指し示す文字列を確認する。
「今日は一限からか……って、え!!?」
声に出してギョッとする。自分の喉から出たはずのその声が、明らかに自分の声とは違った。喉の調子とか、そういう問題ではない。なぜなら――
「僕の声、こんなに高かったか?!」
まるで声変わりする前に戻ったような――いや、明らかに女性の声だった。
慌てて洗面所に駆け込んだ僕は、鏡に映った姿を見てさらに愕然とする。
「マジかよ……!! これ、えっ?!女?!僕?!」
完全に混乱した僕は最早自分でも何を言っているのか分からない。
黒髪のショートヘア、はいつも通りなのだが。
大きな瞳にくっきり二重、小ぶりな鼻に、ぷっくりとした――大抵の男なら思わずキスしたくなるような――唇。
さらに視点を下ろすと豊満なバストに、引き締まったウエスト。
一応恐る恐る股間に手をやるが…。
「やっぱり……ついてない!!」
どこからどう見ても、顔もスタイルも申し分ない美女だ。
中身は間違いなく【
――どうしようどうしようどうしよう?!
完全に混乱して大学どころではなくなった。とりあえず自分の体を叩いたり引っ張ったりして元に戻らないか試してみたのだが。
結果、惨敗。
まあそりゃそうだよな……と思いつつ万策尽き果てた僕は、外に助けを求めることにした。
プルル、プルル。
『もしもし? カオル、朝からどうした??』
きっかり2回コールを数えて電話に出る聡。
「聡、助けてくれ!!」
『え、ちょ?! 誰?!』
聡は僕の変わり果てた声に混乱している。
「僕だよ! カオルだ! お前の親友の!!」
『あー、カオルの新しい女……?』
「ちがーーーう!!」
スマホ越しに?を沢山つけている聡に、力いっぱい叫んだ。
「僕だよ!! 僕!! 日下部薫本人!!」
『はあ? 冗談だろ?』
そう言って笑いだした聡だったが、
「冗談じゃないんだよ!! なんか朝起きたら女になってて……。」
後半涙声になった僕に慌てたのか、
『ごめん、分かった! マジなのか?!』
「マジだよ……助けてくれよ……とりあえずうちに来てくれ……!!」
『分かった、今から行く!!』
正直本当に信じてくれたかは怪しいが、とりあえず家に来てくれる事になっただけでもありがたい。実際に見せた方が色々早そうだし。
――とにかく、早く来てくれ!!
祈るように僕は心の中で呟いた。
◇◇◇◇
ピンポーン。
電話を切ってから15分後。永遠にも思えたその15分の終わりを告げるチャイムがなった。
「開いてる、入って!!」
ボロアパートの自室からそう叫ぶ僕の声に、戸惑いながら聡が入ってきた。
「え。誰?」
開口一番、聡の口から出た言葉は彼がまだ目の前の事態を把握していないことを意味する。そんな彼に僕は力説した。
「だ! か! ら! 僕だよ! さっき説明しただろ!」
「俺の誕生日は?」
「7月9日!!」
「俺の行きつけは?」
「大学最寄りのきち牛!」
「俺のきち牛での定番メニューは?」
「牛丼大盛り生卵と豚汁セットつき!!」
聡の問いに間髪入れず正解する僕。
「……本当にカオル、なのか……?」
恐る恐る、聡は確認する。
「うん……。」
僕はまたも泣きそうになりながら答える。
「こりゃ驚いた……!! マジか……!!」
僕の全身をまじまじと眺め、うーん、と首を捻る。
「どうしたら元に戻れると思う?」
「うん!! 分からん!!」
自信満々に答える聡に、
「まあ、そうだよな……。」
またも涙が溢れそうになる僕に、またも慌てた聡がとりあえずハンカチを差し出しながら言った。
「これは……本物の女性の見解を仰ごう。」
そして、スマホを取りだし通話を始める。
「あ、もしもし? 俺、聡。とりあえず何も言わずにカオルの自宅に来てくれ!! 今すぐに!!」
◇◇◇◇
それからさらに1時間。
憮然とした表情の遥が家に到着した。
「今日授業午後からだから、昨日夜更かししたのよねー。まだ眠いんだけど。」
ぶつくさ言いながら、僕と聡の顔を交互に見回し。
「で、誰、この子? 聡の彼女?」
『違うよ!!』
聡と僕の声が重なった。
「落ち着いて聞いてくれ……この子……カオルなんだ……!!」
「は?!」
聡の言葉が一瞬理解出来ず、間の抜けた声を上げる遥。
「僕だよ。日下部薫本人、その人。」
「ちょっと何それ、新手のギャグ?! 悪趣味ですけど?!」
全然信じてない。まあそりゃそうだよな。
かくなる上は!!
「遥、お前小学2年の時に展覧会に出した蛇の粘土細工、皆にう〇こって言われて大泣きしたよな?」
「?!」
「そして、小学校の卒業式の時、クラスの男子に告白して振られたりとかしてた!!」
「!!」
「それから、まだあるぞ!!」
まだまだネタはあるのだ。が――
「もういい分かったカオル!!」
殺気めいたものを感じた次の瞬間、必死に笑いを堪える聡と一緒にもれなくグーパンチを食らったが、とりあえず遥にも僕がカオルだとわかって貰えたようだ。
「……で、どうしてこんな事に?」
「それはこっちが聞きたい。」
遥の問いに頭を抱える僕。
「突然、今朝起きたらこうなってて。」
戸惑いながら話していると、
「で、どうしたらいいのか分からないから、本物の女性の意見を聞こうと思ってね。」
聡が助け舟を出してくれる。
「本物の女性の意見ったって……こんなこと初めてだし、どうしたらいいのかなんて分かるわけないじゃん。」
ごもっともである。
海より深いため息をついていると。
「なんか、魔法とか呪いとかみたいな話だよな。普通に考えてありえないし。」
ふと、聡がそんなことを言った。すると突然、
「それだ!!!!」
遥が大声を出した。
「急に大きな声出すなよ、びっくりするじゃねーか。」
僕の抗議をスルーして遥は話を続ける。
「これ、やっぱり呪いなんだよ!! 知り合いにその手の話に詳しい人いるから、見てもらいに行こう?」
「は? 呪い? そんなのあるわけ……」
「あるわよ! 大体呪いがありえないなら、男が女になる現状だって十分ありえないんだから。最悪ダメ元じゃない。」
確かに遥の言う通りではある。
だが、呪いなんていうものが実際にあるとはにわかには信じられない。まあ、確かに現状を考えると信じざるを得ないのかもしれないが――
「うーん、他に手がかりがない以上、遥の言うダメ元の可能性に縋るのはありかもな。」
聡までそんなことを言う。
こうなったら、ヤケクソだ!
他に縋るアテがない以上、遥の知り合いとやらに頼るしかない、か。
「分かった、遥の知り合いに見てもらうよ。」
我ながら苦渋の決断である。
「よろしい! じゃあ早速連絡してみるね。っとその前に……。私アンタが元に戻るまでカオリって呼ぶから。」
「はあ?!」
突然の遥の宣言に、僕は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「その方が何かと混乱しないでしょ?」
別に女性でカオルという名前でもおかしくはないと思うのだが!!
そう抗議しようとしたそばから、聡がニヤニヤしながら言い放つ。
「俺もその案乗った!! よろしくな! カオリちゃん!!」
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