Day 2.遥の温情~お目付け役も楽じゃない~
夕方から夜に変わる位の、いわゆる黄昏時にあたるこの時間に、私たちは待ち合わせをしていた。
「遥、やっほ~!!」
待ち合わせ場所にたった今やってきた派手目な友人が挨拶してくる。
「急に呼び出しとかびっくりしたー!!」
「急でごめんね、マリ。来てくれてありがとう。」
私の謝罪と感謝にマリは、良いってことよ、と言ってわざとらしくがははと笑った。
「さて、これで全員揃ったわね!」
集まったメンバーを見渡しながら確認する。
「ねね、これからどうするのー?」
マリの疑問に、
「とりあえずみんなで落ち着けるお店行こうかなって。ゆっくり話せそうなとこ。自己紹介もそこで!」
そう答えると、私とカオリを含めた総勢5名は近場の落ち着けそうな居酒屋に向かった。
◇◇◇◇
「さて、事情説明の前に軽く自己紹介しよっか。私の事は全員知ってると思うけど一応私からするね!」
店に着き、全員に事前注文したドリンクが行き渡ったのを確認。乾杯した後、私はそう宣言して自己紹介を始める。
後の子のテンプレになるように、自分の名前、年齢、趣味と好きな異性のタイプを話す。すると…。
「ええー?! 好きな異性のタイプも言うんだ??」
少しびっくりした様子のマリ。ほかの2人も訝しがっている様子を見せた。
「うん、趣味もそうだけどそこもとっても大事だから教えてね!」
これはある種の合コンなのだ。
趣味や異性のタイプは最低限聞いておきたい。
全てはカオリに真実の愛を見つけてもらうため。細かいことは事情を説明する時でいいよね!
「じゃあ、次は…私から時計回りの順番で!!」
「私かあ、了解!」
私の向かいに座った太ってもなく、痩せすぎてもない健康的な肉付きの美人が自己紹介を始める。
「私の名前は
「おー、女性のバイク乗りかっこいい!!」
女性一同から尊敬の眼差しが注がれる中、
「……ヤンキーかな?」
カオリが放った一言に、その場の空気が凍りつく!!
(ちょっと、カオリ!!)
小声でたしなめてから、
「カオリ、アンタそれいつの時代の価値観よ?! サヤカは純粋に子供の頃からバイク乗りに憧れてただけで、素行に問題はないんだから!! 性格もサバサバ系でとっても頼りになるんだよー!!」
慌ててフォローを入れた。
フォローの甲斐あって少しだけ場が和らいだところを見計らい、
「次、マリお願い。」
「はあーい!」
マリは元気よく返事をする。
「マリでーす! 大学2年、20歳です!! 趣味はー、可愛いお洋服とかコスメとか集めること!! 好きな人のタイプはー、優しい人、カナ?」
見るからにギャルギャルしい見た目と話し方。美人というよりかわいい系の彼女は先のサヤカとは正反対の性格の持ち主なんだけど、とりあえずカオリの好みが分からないから色々取り揃えてみた。
何か言いたげなカオリに有無を言わせず、次の自己紹介を促す。
「
深窓の令嬢を絵にしたらきっとこんなんだろう、と思わせる華奢で儚げなこれまた美人がたおやかに挨拶した。
「よろしくねー!」
「じゃあ最後にカオリ、自己紹介よろしく!」
カオリは躊躇いがちに話し始める。
「えっと……僕は日下部カオリといいます。大学3年21歳です。趣味は読書とゲームです。よろしくお願いします!!」
「ボクっ娘だ……!!」
「まさかのボクっ娘……!!」
「本当にいるんだ……!!」
マリ、サヤカ、エリカは珍しいものを見るような目でカオリをガン見しだした。
「カオリがボクっ娘なのには深ーい訳があってね……これから説明するんだけど、その上で皆、というかこの中の誰かに手伝ってもらいたいことがあって。」
カオリが元々カオルだったこと、元に戻すには真実の愛を見つけなくてはいけないことをかいつまんで話す。
「……。」
突拍子もない話に、3人とも眉をひそめた。
「性転換、したわけじゃない、のよね……??」
「本当にそんなことあるのー?」
一同半信半疑どころか完全に疑ってかかっている。
そりゃそうだよね、こんな話いきなり聞かされてすんなり信じる方がどうかしてる。
その時、突然マリがカオリに手を伸ばすと、
「えいっ!」
「に゛ゃっ?!」
?!?!
むにゅっ
「本物のおっぱいだー! このハリといい、整形じゃないね!!」
「ちょっと、いくらなんでもいきなりそれは……。」
たしなめる横から、他の2人も面白がって
「私もさわらせてー!!」
「宜しければ私も触ってみたいです!」
カオリの返事も待たず。
むにっ!
むにむにっ!!
「わ、カオリちゃん、おっきいね!!」
「……凄い!!」
最早、ノリは完全に女子会だ。
「……そろそろやめたげて?」
予想だにしなかった展開に羞恥で顔が真っ赤になっているカオリを見かねて、苦笑しつつ助け舟を入れてあげることに。
「あ、ごめん!」
「おっきくて触り甲斐があるから、ついつい。ごめんね。」
「すみません、調子に乗りました……。」
三者三様に揉んだりつついたりしていた手を止める。
「ところで、カオリちゃん……カオルくん? どっちで呼べばいいか分からないけど、さっき好みのタイプ聞けてなかったよねー? 折角だから教えてよー。参考までに。」
マリが鋭い。普段ぽわんとしてるクセにこういう時やたら鋭い。
バレた!とでも言いたげなカオリは少し困惑した顔になり。
「実は……誰かを好きになったことないから分からなくて……。」
なるほど、好みのタイプは言わなかったんじゃなくて言えなかったのね。
「へっ?!」
「まさかその歳で初恋まだなの……?!」
「女性になってこれなら男性だった時もきっとイケメンでしょうに、意外ですね!」
「まあ、ヤらせてくれる女に困ったことないし。好きになれなくても困らなかったんだけどね。」
会場の気温が氷点下まで下がった。
(もう! カオリ!! サラッと爆弾発言しないで!!)
注意するも時すでに遅し。
「あー、なるほど。」
「色々納得。」
女性陣から冷ややかな目で見つめられ、さすがのカオリも居心地が悪そう。そして最悪なことに私にまで飛び火した。
「で、遥はこのクズ男(?)くんとうちらの中の誰かに真実の愛とやらを見つけさせようとしてる訳か。」
うっ……!!
ジト目のサヤカに慌てる私。もうっ、カオリが余計なこと言うから!!
こうなったら……!
「ま、まあ、アドバイスだけでも良いので!! 真実の愛を見つけるにあたって直した方がいいとことか!!」
「……それ、遥の方がよく分かってるんじゃない??」
ぐぬぬ、そう来るか!!
「そうなんだけど、私が言っても聞かないしさ。第三者からのアドバイスの方が受け入れやすいかな、って。」
苦し紛れの言い訳だけど、何とか納得してもらえたらしい。
「それじゃあ遠慮なく言わせてもらうけど。」
サヤカのダメ出しとも説教とも取れる口撃が始まった!!
相手の気持ちを考えて!
女性を人として扱ってない!!
etc etc......結構キツい言い方が堪えるのか、カオリは心做しか顔が青い。
マリは既に興味をなくしたのか頼んだ唐揚げを美味しそうに頬張っている。
説教が始まって小一時間がたった頃。
「ご、ごめん、ちょっと急用が出来たから帰るわ……今日はありがとう。」
顔面蒼白のカオリがそそくさと帰った。
「ごめん、さすがに言いすぎたかなあ。」
「うーん、多分大丈夫だと思うけど……。」
突然のことにサヤカは少し自己嫌悪モードに入ったみたい。
マリは相変わらず何食わぬ顔で料理を平らげているし、エリカは特に何も気にしていなさそうに見える。
とはいえ主役が帰ってしまったことだし、今回はお開きにする事にして、来てくれた3人にはとりあえず色々謝っておいた。
◇◇◇◇
♪♪♪~♪
帰宅後しばらくして、スマホが鳴った。
「こんな時間に誰だろ?」
表示をみると、カオリだった。
「もしもーし、どうしたの? もしかしてサヤカの説教効いた?? サヤカも言いすぎたって謝ってたよ。」
『……お前、わざとだろ。』
カオリの突拍子もない言い口に、なんの事か分からず私は黙り込んだ。
『あのエリカって女、絶対そっちの気があるやつだって知ってて呼んだだろ!!』
「?! もしかして、なんかされた?!」
『なんかされた?! じゃないよ……!! アイツ、途中で僕の隣に移動してきて、ずっと僕の体触ってきたんだぞ!!』
カオリが途中で帰った理由はこれか!!
「う……ごめん、実は薄々そういう気があるのかなーとは思ってたけど……まさかそこまでするとは思わなくて……。ほんとごめん、カオリ怖かったよね。」
申し訳なさ過ぎて半泣きになる私に、
『ま、まあ僕のためにしてくれた事だからそこは感謝してるけどさ。』
カオリは慌てて取り繕う。
『とにかく、次の策を考えないとだ……。』
「そうだね……。」
今回の作戦は盛大に失敗に終わった訳で。次の策とかどうしたらいいんだろう…頭が痛いことこの上ない。
「とりあえずもうこんな時間だし、今日は寝よ。寝ないと浮かぶ案も浮かばないし。」
『そうだね……おやすみ。』
「うん、おやすみ」
通話が切れると同時に今日の疲れがどっと押し寄せてきた。
うん、もう寝よ。考えるのは明日だ!!
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